#4 彼氏にプロポーズされました

 それは、私が陽向の家に泊まった翌日の日曜日の事だった。


 久しぶりに陽向が日曜日に休みだというので、私は土曜日から彼の家で一緒に夕食を食べた後、翌日も一日使ってずっとイチャイチャしようと思いついた。


 けれど、夕食は何を作ろうかと考えていると、今日は仕事が長引いて遅くなりそうなので陽向の分の夕食はいらないと連絡がきた。


 私は少しがっかりしたけれど、その埋め合わせは明日、陽向にしてもらう事にして、陽向の住むアパートの一室で家事をやったり夕食を作って食べたり、長風呂をしてみる。

 結構早い時間から来たせいで、七時を過ぎる頃にはもうやる事も無くなってしまった。


 風呂から出て肌の手入れや髪も乾かし終わった私は、陽向と自分のにおいがしみついたベッドに寝転ぶ。

 もう幾度と無く遊びに来たり泊まりに来たりして、そこかしこに私の物が置かれ、私が快適に過ごせるようじわじわと私好みにカスタマイズしたこの部屋には、妙な安心感がある。


「いつまで一緒にいられるんだろう……」


 そんな言葉が意図せず私の口からポロリと零れ落ちた。

 私はなんだかいたたまれなくなって、戸棚からおやつ用に買ってきた柿の種と晩酌用に置いてある梅酒を取り出して特に見たい番組も無いテレビをつける。


 初めて見る連続ドラマの第六話をぼんやりと見ながら柿の種をつまみにちびちびと梅酒をストレートで飲む。

 ドラマが終わる頃には頭がふわふわして程よい酩酊めいてい感に包まれつつ、そのままちゃぶ台の後ろにあるベッドへと横になる。


 宅飲みはこうやって飲んですぐ横になれるのがいい。

 とてもいい。

 ……陽向もくだらない話をしながらこうやって一緒にだらだらしてくれたらもっといいのに。

 時計を見たらまだ八時前だったけれど、私の視界はぐらぐらしてもうダメだった。


 翌朝、私が目を覚ますと換気扇の回す音がしていて、頭を動かしてみれば、陽向が台所で何かを作っている所だった。

 頭がガンガンする。


 時計を見れば、朝の八時過ぎだった。

 まさか十二時間以上爆睡していたなんて……。

 なんだか、とてももったいない事をした気がする。


 大きなため息と共に顔を両手で覆って、私は違和感に気づいた。

 左の指に、何かついてる……?

 寝起きの頭でなんだろうと見てみれば、私の左手薬指に、一粒のダイヤがついた銀色の指輪が光っていた。


「えっ……!?」

 思わず私は声をあげる。

「なんだ、もう気づいたのか」

 驚く私に、陽向は味噌汁やごはん、ゆで卵などを乗せたおぼんを目の前のちゃぶ台に置きながら言う。


 そういえば昨日散らかしっぱなしで寝てしまったけれど、どうやら陽向が片付けてくれていたようだ。


 ……じゃない!

 今はそれどころじゃない!


「ねえ、陽向、これって……」

「俺と結婚して欲しい」

 陽向はベッドに腰掛けた私にひざまずく形で向き合って、私の左手を両手で包み込みながら、真剣な顔でじっと私を見る。


 そんな、もしかしてこれは夢なのだろうか。

 だってこんなの、あんまりに都合が良すぎるじゃないか。

「幸……?」

 言葉を失って陽向に握られた手を凝視する私に、陽向が私の名前を呼びながら顔を覗き込んでくる。


「うんっ! 私、陽向と結婚する!」

 次の瞬間、私は陽向に思いっきり抱きついていた。

 こんなに嬉しい事はない。

 陽向の気が変わらないうちに是非そうしよう。


 陽向はいきなり私に抱きつかれて驚いたようだったけれど、すぐに私を抱きとめてくれて、私は胡坐あぐらをかいた陽向の上にまたがるように座る形に収まる。


「この指輪、私にぴったりだけど、いつの間にサイズ調べたの? 私、普段指輪なんてつけないのに」

「ああ、寝てる間にちょっとな。驚いたか?」

 私が尋ねれば、陽向は得意気に笑った。

 どうやら私を驚かせようと、前からこっそり準備してくれていたらしい。


「うんっ、すっごくびっくりした!」

 そのまま私が陽向にキスをすれば、陽向もそれに応えるようにキスをしてくる。

 しばらくはついばむようなキスを続けていたけれど、だんだんもどかしくなってきて、私は陽向にキスをしながら体重をかける。


 陽向は抵抗するでもなく、大人しく私に押し倒された。

「おい、飯が冷めるぞ」

 続きをしようとする私を軽く手で押し返して、ニヤニヤしながら聞いてくる。


「後で温めなおせば平気だよ。嫌ならやめるけど」

 やめるつもりなんてないくせに、なんて思いつつ、身体を起こして横になった陽向に跨って見下ろしながら私は言う。


「嫌ではないな」

「きゃっ!?」

 陽向は私の身体に手をまわしたかと思うと、身体を起こして私を正面から抱き抱えると、そのまますぐ横のベッドに下ろした。


「もうっ……こんなに私をドキドキさせたんだから、ちゃんと責任とってよねっ」

 たくましい腕を左手で撫でながら私が言えば、陽向は満足そうに目を細めると、今度は私に深いキスをしてくる。


 ……朝食はすっかり冷めてしまったけれど、めんどくさいので温めなおさずに二人でそのまま食べた。

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