#3 幼なじみにプロポーズされました
「……という感じで、彼とはラブラブなんだけどまだ結婚とかそういう話はなくて、元彼の方は相も変わらず復縁とかデートの誘いとかの連絡が毎日来るんだけど、どうしたらいいと思う? 男の人の意見が聞きたい」
もう九月とはいえ残暑が厳しいこの頃、私は保育園の頃からの幼なじみと二人、カキ氷を食べに来ていた。
一気に食べても頭がキーンと痛くならない、ふわふわで、果肉たっぷりのカキ氷である。
「さっちゃんは会う度その幸の薄そうな見た目と中身のギャップが広がってくよね。いつか痴情のもつれで男に刺されないか心配だよ」
「それ、
目の前でやれやれとわざとらしく肩をすくめる瑞希に私はムッとする。
昔から女好きのする爽かな外見をしていた瑞希は、大学生の頃など、数々の女の子と浮名を流し、社会人になってからも、彼の下半身のフリーダムっぷりはたまに友人同士の噂で聞く。
一時は私も瑞希と肉体関係を持ったりしていたけれど、大学に入って私に初めての彼氏が出来てからはすっかりそういう事はなくなった。
「僕は最初からそういう相手には変な希望は持たせないよ」
「はいはい。それで、どう思う?」
「どう思うって?」
「今の彼氏とこのまま関係を続けるべきか、元彼と復縁するべきか、もういっそその辺との関係を切って婚活でもすべきか……」
我ながら最低な相談だなあ、とは思いつつ、それでも瑞希なら話を聞いてくれる事を知っているので、つい話してしまう。
これ程までに気心が知れていて、付き合いが良く、口の堅い男友達というのもそうそういない。
「さっちゃんはすぐに結婚したいの? ……まあ、出産の年齢とか考えるとそうか」
「そうかも。でも、子供は出来たら欲しいけど、別にいなくても構わないかな……養子とかもあるし」
「……親がうるさいとか?」
「うちは放任主義だからあんまりそういうのないなあ、相手あってのことだから無理に結婚しなくてもいいとも言われるし……まあ、それでも口に出さないだけで結婚して欲しいとは思ってるんじゃないかな」
「一人暮らしが寂しいとか?」
「結構楽しくやってるし、外に出れば彼氏も友達もいるし、実家は同じ都内だからその気になればいつでも帰れるし、特には」
「じゃあ、仕事がきつくてやめたいとか?」
「楽しい仕事って訳じゃないけど、辞めたいって訳じゃないよ。専業主婦になって欲しいって言うなら別に辞めてもいいけど、共働きでもいいし、そもそも、耐えられない程苦痛な仕事なら辞めて転職してるし」
「なら、どうしてさっちゃんは早く結婚したいの? 世間体?」
いよいよ不可解そうに瑞希は首を傾げた。
「……だって、不安なんだもん」
「不安?」
「たぶん、私は約束が欲しいんだと思う。この先十年、二十年、それこそおばあちゃんになっても、ずっと一緒にいてくれるって約束」
そしてそれは、必ずしも今の彼でなくてもいいのだ。
その約束をはたしてくれるのなら。
できれば陽向がいいし、誰でもいい訳じゃないけれど。
「だったら、僕と結婚するっていうのは?」
「えー……私、浮気する人はちょっと」
いいことを思いついたとニコニコしながら言う瑞希に、私は少し演技がかった口調でふざけて返す。
「僕がさっちゃんといた時はさっちゃんだけだったよ」
「昔がそうだったからといって、今がそうとは限らないでしょ」
拗ねたように言う瑞希に、私はつっこみを入れる。
私が瑞希と関係を持っていたのは主に高校生の頃で、瑞希が女遊びを憶えたのは大学に入ってからだ。
高校の頃は単に手近で都合のいい女が私しかいなかったからそうだったのであって、大人になった今と比べられても意味は無いように思える。
それに、ある一定の年齢になってくると、既婚者の方が女遊びに有利だとかなんとか聞いたことがあるし、瑞希の素行を考えると警戒してしまう。
まあ、瑞希自身も本気で言っている訳ではないのだ。
瑞希はそうやって息をするように女の子を引っ掛けるのがもはや癖になっているだけなのである。
そうこう話しているうちに、やっと頼んでいたカキ氷が届いた。
私の頼んだごろごろとした果肉がたっぷりのイチゴシロップがかかったふわふわのカキ氷と、瑞希の頼んだ白いカキ氷に鮮やかな緑と小豆が映える宇治金時だ。
「うわぁ、すっごい美味しそう!」
ワクワクしながら一口食べれば、口の中で
「僕は本気なんだけどな……」
カキ氷に私が舌鼓を打っていると、瑞希が寂しそうに笑った。
「はいはい、じゃあもしもの時はお願いね」
「もしもの時ってどんな時?」
「もしもは……もしもの時だよ」
再びカキ氷に目を戻しながら、私は妙にドキドキしてしまう自分に言い聞かせる。
あの笑顔は特に深い意味なんてない。
瑞希は大体の女友達に二人で出かけるとこんな感じに違いない。
だからうっかり騙されたらダメだ!
瑞希といると
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