#2 彼氏に話しちゃいました
「なんで元彼とまだ会ってるんだよ」
今の私の彼氏である
……しまった。
別にこの事を陽向に言うつもりは無かったのに。
陽向の反応から一拍置いて、私は後悔した。
でもまあ、もう言ってしまったものは仕方ない。
「だって、別れた後も友達同士、皆で遊んだりしてたんだもん」
「友達として会ってたなら、なんでプロポーズしてくるんだよ」
「いろんな女の子と付き合ったらしいんだけど、やっぱり私がいいんだってさ」
私は味噌汁をすすりつつ陽向の質問に答えていく。
「……それで?」
「それでって?」
眉間にしわを寄せて聞く陽向に私はわざとらしく首を傾げる。
「ちゃんと断ったのか?」
「断って欲しかった?」
内心ギクッとしつつ、私が茶化すように言えば、ギロリと陽向がこちらを睨んでくる。
そんな風に妬いてくれるなら、陽向だって私にプロポーズしてくれたらいいのに。
なんて思いつつも、彼の私に対する執着が感じられて、ドキドキしてしまう。
「そのプロポーズを受けてたら、今こうやって陽向に手料理を振舞ったりしないよ」
やだなあ、と私は笑う。
プロポーズを断ってはいないけれど、受けてもいないので、嘘ではない。
「へえ……」
「元彼なんて別れる理由があったから別れたんだもん」
「……」
困った、思った以上に彼の機嫌を損ねてしまったかもしれない。
「元彼よりも陽向と一緒にいたいから、私はここにいるんだよ」
「ま、だろうな。知ってる」
後ろめたさも手伝って、できるだけ優しく言い聞かせるように言えば、顔を上げた陽向はニヤリと笑って私に言った。
これは本気でそう思っているのか、ただの強がりなのか。
「まあ、陽向よりも他にいい人がいればそっちに行くけどね」
「なっ……!」
あんまりにも自信満々に言われて、ちょっとイラッとしたので、挑発するように私が言えば、陽向が一瞬ひるむ。
「あれあれ? もしかして、陽向は私を繋ぎ止める自信がないのかな?」
「そっ、そんな訳ないだろ!」
更に煽るように言ってやれば、陽向はムキになって食って掛かってくる。
「うん、そうだよね。だから私は今、陽向といるんだもん」
「当たり前だろっ!」
自分の顔がにやけるのを感じながら言えば、陽向は顔を赤くして照れ始める。
そんな彼を見て、可愛いなあ、と思ってしまう。
「あ、じゃあ今度、男友達と二人でごはん食べに行ってきていい?」
「言ったそばからお前っ……」
「やっぱりずっと一緒にいるとそれが当たり前になっちゃうし、他の人を見て陽向の良さを再確認したいなと思って」
「……俺みたいに寛容な男なんてそうそういないんだからなっ」
「知ってる」
不満そうにしながらも了承する陽向に、私は笑顔で頷く。
こんな風に言えば、負けず嫌いの陽向がダメだと言えない事は知っている。
嫌だと言えば、話の流れ的に陽向が私を繋ぎとめておくだけの自信がないと認める事になるし、プライドの高い彼はそんな事、絶対にできないのだ。
「飯食ったら男とは別れてすぐ帰れよ」
「もちろん」
文句を言いたげな陽向に私は大きく頷く。
「ねえねえ陽向」
「なんだよ……」
「私、陽向のそういう所好きだよ」
再び夕食を食べ始めた陽向の顔をしみじみと見つめながら私は言う。
「陽向は明日、朝から仕事なんだっけ?」
「いや、昼から……」
「じゃあ、今日はゆっくりできるね」
私はよつんばいでちゃぶ台の反対側まで移動し、陽向の右側から抱きつく。
「まあ、最近はなかなか休みのタイミングが合わなかったしな」
陽向もまんざらでもない様子で体をひねってそのまま私を押し倒す。
その後すぐ彼のキスが降ってきて、私も陽向の背中に腕を回す。
「もう、ごはん冷めちゃうよ」
「幸の飯は冷めてもうまいから平気だろ」
服の中に手を入れてきた陽向に、背中に回した腕はそのままで形ばかりの抗議をすれば、陽向は私の胸元に甘えるように顔を埋めながら言う。
「しょうがないなぁ」
なんて、口では言いつつ私は陽向に脚を絡める。
今日は金曜日だけれど、陽向の仕事は休みが不安定なので、土日に出勤で平日に休みというのもよくあるのだ。
元彼の事も陽向に話したら少しすっきりしたので、今日はもう楽しい事だけ考えよう。
結局、私達が食事を再開する頃には夕食は冷めてしまっていた。
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