第一章 アルティオ第四班

新たなスタート・・・


 激しく鳴り響く戦火の音に彼は意識を取り戻す。記憶では銃火器の類を持っていた暴徒はいなかったと思う。それより生きていた事に自体にびっくりである。体が重い・・・。しかし、このままでは銃に撃たれ今度こそゲームオーバーだ。意を決して身体を起こし、この場から離れるため周りを確認する。そこに広がるのは石造りの壁ばかりである。

 「ここは、どこだ・・・。」

 見知らぬ場所、しかも扉こそあれど、窓や装飾の一つない空間である。依然として戦火の音は勢い衰えず鳴り響いていたが、彼はつぶやきを漏らさずにはいられなかった。そんな事つぶやきながらもこの場を離れるため目の前の扉へ、この空間唯一の出入り口を開くのであった。開いた先は闇であった。いくら目を凝らしても先は全くわからない。不思議と吸い込まれるような感覚を覚える。この場に留まっていたところで何も変わらない。恐る恐る中に進み入る。進めど進めど何も見えない。どの方向に歩いているのかもわからなくなりそうだ。先ほどまでうるさく鳴り響いていた戦火の音も遠のき、もう聞こえてこなくなっていた。



―――――汝、求めるは槍か?それとも盾か?



 不意に問いかけが投げかけられた。辺りは相も変わらず闇である。声の主の気配も全く感じることができない。こんな状況であるのにもかかわらず、彼には警戒心が全くなかった。声だけでも美人だと分かる澄んだ心地の良いものであり、思考をついつい放棄してしまう。彼の答えは決まっていた。

「盾・・・。そう、自分だけでなく周りをも守るための力が。盾がいい!」

 あの出来事で自分が無力であることを。

 武器を持って相手を倒すより、まずは自分が生き残るための力が必要なことを。

 誰かを守る為には自分を守れなきゃいけないことを。

 もし、自分を犠牲に誰かを守れたとしても、悲しみを生んでしまうことを。


 彼は理解していた。



―――――では、汝に盾の加護を。



 彼の意識はそこで暗闇のそこへ落ちていくのであった。






 ◆






 「おい、坊主いきてるか!?」

二度目の目覚めは戦士風の屈強な男性によるものだった。どうせなら美女が良かったなと思いつつ彼は短く返事を返すのであった。

 「おぉ、生きてたか!よかった、ここがどこか分かるか?自分の名前は分かるか?」

 彼の意識があることがわかると戦士風の男性は矢継ぎ早に質問をしてきたのである。暴徒からの閉鎖空間、謎の声といろいろありすぎて、彼は頭の整理が追いついていない。正直戸惑っている。数分の出来事のような感覚なのだが、あの青い空、白い雲の流れる平和な日常が、遠くに感じるからかもしれない。そんな彼の様子に何か感じたのか戦士風の男性はまた口を開く。

 「おっと、先に俺らの事話した方が良さそうだな。俺は城塞都市ルルーエル、アルティオ第四班隊長、ケルノンだ。都市外にあるこの女神ネッスカアンの祠で君を見つけ生存確認をしてるってわけだ。」

 ケルノンは彼の警戒を解くためか、もとよりの性格なのか、筋骨隆々のの見た目に似合わない笑みを向けているのであった。

 その様子に彼は気が緩んだのか笑い声が漏れる。それに呼応するように

 「おいおい、失礼だな。なんもおかしな事言ってないぞ俺」

 ケルノンが軽いノリで場を和ませようとしていた。少しイカつい顔立ちに似合わなく、それがまたおかしい。彼の警戒心や戸惑い、不安を吹き飛ばしていた。

 「ごめんなさい、色々とあって気が張り詰めていたからつい。僕は友枝ともえだ 桜也おうや。城塞都市?というものがわからないです。ここは日本じゃないんですか?」

 これを聞くにケルノンの表情は一転し、険しいものになる。見た目にも合っており、醸し出す雰囲気もあり空気が凍りついたかのように彼は感じるのであった。そこへ一人の男が駆け込んできた。腕にはケルノンも身につけている土色の頑丈そうな腕輪がついている。隊員の一人だろう。

 「隊長、緊急避難命令です!この付近に大型の出現予測です。一度ネストに戻り、支援準備をし、待機せよとのことです。」

 「っく!まずは離脱だ。桜也くん、君も一緒にネストに来てもらうよ、いいね?」

 桜也は条件反射で頷くのあった。ケルノンについて祠をあとにする。目の前に広がったのは荒廃した都市であった。地は荒れ果て風が吹くたびに砂が舞い、今にも崩れてしまうのではないかと思えてしまうボロボロの建物たち。桜也は気づくのであった。いや、気づかないフリができなかったのである。ここが桜也の知らないだということに。

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