Encore5. finale.→

「あれ、まだ愛衣めいだけ?」

「まぁ早くバイトが終わったから私がちょっと早めなだけなんだけどね」

「ふ~ん、カリスマショップ店員さんも大変だ」

「まぁ、言うほどでもないから」

 曖昧な暖色が空を染め上げている、土曜日の昼下がり。そろそろ春が近づいてくるこの時期に、たぶん高校卒業以来くらいにわたしたちはみんなで集まった。といっても、待ち合わせ場所に着いているのはわたしと愛衣だけ。

佳乃よしのは、まぁたぶんもう少しで着くかな、と思う。さっき連絡きてたし。大方、今日のことを考えて寝られなかったパターンかも。


「あれ、由梨ゆりからは何か聞いてる?」

「ん~……、一応佳乃が来るのは言ってある」

何だかんだ、1番予定を掴みにくいのが由梨だ。大学に行きつついろんなことをしてるとかで、高校のときにべったりなくらい一緒にいた佳乃も、たまに連絡がつかないときがあるらしい。

そうするとわたしとかが色々面倒見ることになるんだけどね、案外世話の焼ける子だから。こないだも由梨が電話に出ないとかいう内容の泣き言を2、3時間は聞いてたかな……(あれ、何かちょっとだけ心配になってきた)。

まぁ、由梨にも佳乃が楽しみにしてる、とか寂しがってる、とか伝えてあるからよっぽどのことがなければ来そうだけどね。



「それにしても、あれだけ遅れがちだった友紀ゆきが最初に着いてるのを見ると、何か時間って流れてるんだなって感じるね」

「ニヤニヤしてなければ最高に嬉しかったなぁ、その言葉」

 そうやって言う愛衣に散々面倒を見てこられたんだから、仕方がない。伊達に毎朝早起きな人のペースで生活してないっての。

「ま、私のお蔭かな?」

 ……高校を卒業しても、このエスパーっぽいところは健在だ。そのせいで隠し事なんてできやしない。


 まぁ、それでこじれてた人間関係を何とかしてもらえたりもしたから、あんまり悪し様にも云わないけどさ。

「友紀って、けっこうツンデレだよね、やっぱ」

「ほんと自重しよ!?」

 言いながらさりげなく髪触ってくるのとか、特に!


「でも凄いよね、友紀は。何だかんだで、ちゃんと全員と繋がり持ち続けてる」


 少しだけ、愛衣の口調が真面目で静かなものになる。まぁ、ちゃんと全員と連絡つくのは、今はもうわたしだけか。

 それぞれ忙しいしね。


 愛衣は、人の気持ちをよく察する。それこそ冗談じゃなく読めてるんじゃないかってくらいに。

 だけど、自分の気持ちは隠したがる。

 しかも、隠すのがとても下手なのに。

「別に平気でしょ」

「……そう?」

「だって、愛衣だって由梨が多少変わってたって気にしないでしょ? それにね、たぶんウチらそこまで変わってないから。会ったらまた昔みたいになるって。だから、安心して待ってようよ」

「そだね……」

「ん?」

「友紀って、エスパーか何か?」

「いつものお返しだよ」

 伊達にと同室で過ごしてないからね。そう言いそうになったのを止めたのは、遠くに見慣れた影が見えたから。


「お待たせ~! 何か、すっごい久しぶり?」

「ごめん遅くなった……! あれ、友紀も御影みかげさんも、だいぶ待った!?」

「ううん、佳乃のイベント遅れ癖には慣れてるし」

「そんな待ってないから。2人とも、久しぶり」


 なんていう挨拶の言葉を交わしたら、離れてた時間とかもすぐにないのと一緒になって。

「じゃ、女子会行きますか!」

「友紀その言い方恥ずかしいから」

「おー! どこでやるの?」

「前会ったとき由梨が行きたがってたお店だよ」

「おぉー!」

 まぁ、そういう感じで。

 今日って言いたくなるような気安さで、わたしたちは楽しく笑い合う。あの頃には気付けなかったことや、わからなかったことも抱えながら。


「あんまり変わってないのに、そんなにあるの?」

「……エスパーめ」


 最後こういう風になるのも、たぶんわたしたちの流れなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キーホルダー、シュークリーム、それから。 遊月奈喩多 @vAN1-SHing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ