Encore.3 Beside Y 友紀の場合

「あのさ、愛衣めい?」

「んー?」

「なんでウチら、こんなコソコソして2人を見てるわけ?」

「ん~、面白いから?」

「なんで疑問形だし……」


 待ちに待った修学旅行、2日目。

 いつも顔を合わせているクラスメイトの普段見られないところを見られたり、あと普通にいつもじゃ行けないような遠い所の景色を見たり、テーマパークに行ったり、観光名所に行ったり、おいしいもの食べたり!

 そういういろんな楽しみが待っている旅行だ。実際、昨日は何だろう……普段真面目で通してる委員長の意外過ぎる趣味に同室全員で驚きまくったり、学年全員で回った資料館の陰で仔猫を見つけた佳乃が見てて恥ずかしいくらいデレデレしてたり?


 それで今日は、よくテレビロケでも出てくる有名な噴水見に行ったり、しかも特等席みたいな見やすい場所からイベントを見られたりして、ご満悦だったんだけど……。

 その後の締めくくり、せっかく来たんだし近くの商店街でお土産を買おうなんて話になって、何故か自然にわたしと愛衣、佳乃と由梨の2組に分かれることになった。まぁ、それはいいんだけどね?


「なんで隠れてんの、ウチら?」

友紀ゆきはあの空気入ってける?」

「うーん……」


 やっぱりどこか面白がってるみたいな笑顔を浮かべている愛衣に言われてみると、確かに入りにくい……。何か2人で並んで小物を見てる。

 たぶん、佳乃は小さい頃からなるべく必要なものだけを買うようにしようみたいな考え方だから、たぶん小物要らないとか言ってるんだろうな……。それで由梨がお揃いでキーホルダー買いたいとか言ってるっぽい……。

 あぁ、たぶん買うなぁ。

 佳乃って由梨には甘いし、あと真顔猫様まがおねこさまみたいなキャラ好きだし。


 ていう場面が、何だろう、わたしら入ってけないな、ってくらいに甘い。

 なんだ、あんたらカップルなんですか? 思わずそう訊きたくなる姿を散々見せつけられてから、由梨と2人で並んで次の場所へ向かったりして。

 ちょっとだけ気まずい。

 なんでそう思うのかはわかんないけど、由梨と2人でいるのがちょっとだけ気まずかった。なんで佳乃と愛衣来ないんだろう……? ちょっと振り返ったら何やら後ろでゆっくり話しながら歩いてきてるのが見えた。

 くぅ、2人とも普段優等生っぽいけどマイペースだからなぁ……!

「う~ん、ねぇ友紀」

「ん?」

 うんうん、普段通り明るい口調の由梨が何だか微笑ましくてありがたいよ、


「あのさ、佳乃の昔のこととか、ちょっと知りたいな……なんて」

 えっと……、この修学旅行はいつから恋愛バラエティみたいになったのかな?



「ってことがあってさぁ……」

「で、その2人が迷子になってるわけだ」

「そ」

 確かに広いよ? 広いけど、ほぼ1本道の室内順路で迷子になるかな!? もうちょっとでショーが始まる時間だし……。どうにか連絡がついて佳乃たちのいる場所もわかったけど、意外に遠いし。

「初々しい恋人同士みたいだよね、あの2人」

「えー、それはないっしょ」

「なんで?」

「だって、女同士だし……」

「いーやわかんないよ~?」

 やっぱり、愛衣はどこか面白がっているみたいに見える。だけど、どこか本気でと言っているようにも見えて。

 わたしだって、そういう形を否定するつもりはない。愛の形は人それぞれ、なんていうのを小さい頃から教えられてきたし、全部が全部人それぞれだ。だけど、それがいざわたし自身の身近で、ってなると、やっぱり……。


「ていうかね? 私は正直、由梨が楽しければそれでいいと思うんだよね。けっこう大変な思いしてたし」

「あー」

 わたしの心を読んだみたいに言われた愛衣の言葉には、納得しかなかった。


 佳乃もそうだったな、なんて思ったから。

 去年クラスでいろんなことがあって、佳乃は、高校で初めてできたすごく大事な友達だから――って自分を蔑ろにするくらいに頑張って、最後には「余計なことしたからもっと面倒なことになった」なんて言われたりして。

 偽善者だとか友情の押し付けだとか、散々な言い方をされても、佳乃は何も言い返せなかった。佳乃はたぶん、大人過ぎたんだ。


『しょうがないよ、結果私がしたのってそう言われるようなことだったもん』


 思わず怒鳴って言い返していたわたしを止めて、小さく静かな声でそう言った佳乃は、その場ではいつも通りで。でも、その分2人だけになったときにこっちの胸が痛くなるくらい泣いた。ずっと一緒にいたのに、慰めの言葉なんて思い浮かばなくて。

 たぶん、何を言っても傷つけてしまいそうな気がして。

 それから、新しい人間関係なんて作るだけ無駄なんて思うようになっていって。2年に上がった日は、わたしと愛衣以外とはほとんど話さなかった。話しかけてきた相手にもほとんど塩対応すれすれの社交辞令しか返さなくて。


 そんな中でちゃんと話していたのが、由梨だった。

 由梨と会って、たぶん佳乃の中で何かが変わったんだと思う。変えられたんだと思う。あの明るさは、確かにわたしじゃあげられない。佳乃の歩幅を知り過ぎているわたしじゃできないことを、してくれていた。

 なら、わたしは。

「……そだねー、まぁ愛衣が言ってたのは違うかもだけど」

「でしょ? うーん、グレーな気がするけどなぁ」

 愛衣も何か思うところがあるのだろう、たぶん今わたしがしてるんだろうなっていうのと同じ顔で微笑んでいる。


「ま、振り回される側は大変だけどね」

 うん、こういう毒をぷちっと入れるのを忘れない愛衣、さすが。

「お互い、手のかかる子がいると大変だね」

「ほんとにね」


 そう言って笑い合ってから、わたしたちは佳乃たちの待っている場所に向かって、人波を掻き分けて行った。

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