Encore.2 For my dear

 佳乃よしのに知ってほしいこと、知らないでいてほしいことが、頭の中でごちゃごちゃしている。まるで、掻き混ぜられるうちに形を失くした砂糖とミルクみたいに。

 佳乃について、知りたいこともそれと同じくらいに増えていって。


 だから、昔から佳乃の友達だった友紀ゆきに、色々訊いたりしていた。もちろん、本人に直接訊けばいいのはわかってるんだけど、何となくそれがしづらかったから。

 そんな中で聞いた、去年のこと。


『それでね、何をしても逆効果で、結局相談してくれた子と佳乃まで仲悪くなっちゃって……。それで人間関係に疲れちゃったっぽいよ』


 友紀は、思い出すのも辛いというような顔で教えてくれた。きっと、佳乃はそれだけ一生懸命その子の為に色々して、色々考えて、それが全く報われずに終わってしまったんだ。

 何かしたら何かが返ってくる。きっと、そんなことを思ってしまうんだと思う。

 その気持ちは痛いほどわかるし、そうならなかった痛みも、泣きたいくらいわかる。そっか、佳乃もそういう思いをしてきたんだね……。

 愛衣めいにも愛想を尽かされていたの記憶が蘇ってきて、自分自身の傷が疼きそうになるのを堪えて、話を聞く。友紀も相当そのことが辛かったみたいで、「何か久々に話したわ、こういうの。愚痴に付きあわせてごめん」と謝られたりしたけど、それじゃない。


 わたしは、たぶん最低だ。


 佳乃の辛かった話を聞いて、友紀もそのことで辛い思いをしてたって聞いて、そのことだってもちろん心配だけど、もう扱いだ。わたしの中で1番にあるのは、「佳乃はその子の為にそこまで一生懸命になったんだな」っていう、なんかもやもやした気持ちだったから。


 もし、わたしがその子とおんなじように悩んでたら、佳乃はそこまでになってくれるかな? 佳乃は勉強だけじゃなくて人間関係とかそういう面でも頭いいから、あんまり逆効果なことなんてしない気がするのに、そういう判断もできなくなるくらい、その子の為に必死だったんだよね。

 そう思ってもらえた子って、誰だったんだろう? 目が怖いって教えてもらえなかったけど、少しだけ苦しくなる。

 わたしも、同じくらいに――ううん、たぶんそれじゃきっとだめだ。


 幼稚なのはわかってる。

 たぶん、呆れられそう。

 でも止まらないんです。


 佳乃の全部を、知りたい。

 わたしの知らない佳乃がどこにもなくなればいいのに。

 ふとそんな想いが芽生えて。

 そんな自分が嫌いになりそうになって。だから、そんな気持ちはどこかに押し隠してしまいたくなる。

 でも、佳乃がどこか遠くを見ているときに、思ってしまう。

 今、佳乃は何を考えてるんだろう? 何でわたしは、佳乃の思ってることがわかんないんだろう? その気持ちを、もうちょっとでもわかれたらいいのに。


 だから、きっと。

 この修学旅行で、もっと。


 ちょっとでも深く、佳乃を知りたい。

 わたしのことも佳乃に知ってほしい。

 その勇気が、わたしにあるといいな。

 電車で集合場所に向かっている間、高鳴る心臓はずっとわたしの背中を押し続けていた。

「あっ、佳乃おはよー!」


 新幹線を待つプラットホーム。

 遠くに見えた影に、わたしはの声で駆け寄った。

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