Encore.1 Dear my friend.
その人を初めて見たのは、高校2年生になった春の日。
始業式のときに同じクラスになって、すぐ後ろの席にいたその人は、感じが違うだけでわたしとおんなじ読みの苗字の人で。
綺麗な顔の人って、元々どこか近寄りにくい印象があると思うんだけど、その人――その日のうちに
だから、多少の勇気は要った。
でも、人に話しかけるときにすることなんて、もう決まってたから。
「あっ、あなたもヒメカワさんなの?」
なるべく親しみを込めた感じで、いっそ馴れ馴れしいくらいの距離感で。わたしにいろんなことを教えてくれた中学校の友達は、みんなそうだった。あの子たちと関わっていろんなことがあったけど、やっぱりその中で教えてもらったことには人と仲良くなれる方法もあって。
去年だってうまくいったんだから、今年もきっと――――
「そうですか」
うわ、すっごいどうでもよさそう。
うーん、自分と同じ苗字の人がいるって、けっこうビックリしそうだけどなぁ、佐藤さんとか鈴木さんじゃないんだし。
その後も、愛想よく喋ってることに全部そっけない返しをされて。
そんな佳乃はどこか、中学校で気まずくなってしまった幼馴染に少しだけ似てるような気がした。
たぶん佳乃はこういうこと言うと怪訝な顔をするだろうけど、最初の日は佳乃のことをちゃんと見てなかったんだと思う。少なくとも、最初に話しかけたときは。
でも、それがどこか変わったのは帰り際。
佳乃がけっこうクールな人だと思ったから、それに合わせて喋り方……は変えないにしても、ちょっとだけ仕草とか歩き方とか真似してみたりしてた。
でも、普段しないような姿勢だったからかすごく疲れて。
「ふぅ~、佳乃ー、また明日ねー」
帰りの
「媛川さん、言おうと思ってやめてたんだけど」
「?」
「私さ、そういう無理されても全然嬉しくないから」
うーん、どうやら1日ずっと合わせてきたのは逆効果だったみたい。すっかり嫌われたかな? せっかく同じ名前の子と会えてちょっとだけ気持ちが弾んでたのにな……、気持ちが沈みきって、時間を巻き戻せないかなんて思ったりして。
「だから、そのままでいれば?」
それだけ。
教室を出る直前に、まるで置いていくようにかけられたそんな言葉だけで、何故か気力が戻って。
あぁ、明日も頑張ろ。
明日はもっと佳乃と仲良くなれるように、ちょっと頑張ろ。
不思議とそんなことを思ったのが、始まりだった。
そのうちに、どんどんいろんなことを知って。
佳乃が実はけっこう可愛いもの好きだったり、保護された野生動物のドキュメンタリー動画を見てボロボロ泣く人だったり、得意科目と苦手科目の差が激しかったり、釣り好きだったり、たまたま暇になって薦めた音ゲーにすっごくハマってたり、あと笑った顔が普段の「綺麗」じゃなくて完全に「可愛い」だったり。
ちょっとというかけっこうそういう方面では子どもっぽかったり。
いろんな佳乃を知っていくうちに、思っていた。
佳乃に、わたしのことも知ってほしい、って。
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