Program11. 黄昏に笑む
「……
「ん……、」
「……、っ、佳乃! もう駅着いたよ!!」
「――――っ!?」
急に耳元で出された大きな声に、思わず飛び起きる。慌てて振り向いた先には「やーっと起きた~」と何故か得意げに笑っている
「ひゃっ!?」
自分でも信じられないような間抜けな声が漏れて、思わずそっぽを向いてしまう。由梨がクスクスと笑いながら、「ほんとに何か、学校じゃないとこだと全然違うんだね、佳乃って。おうちだとけっこう甘えんぼさん?」と訊いてくる。
「んー、そんなことはないと思うけどなぁ……」
由梨の方を見られないまま、荷物の準備をしながら返事をする。だけど、寝起きだし、もうほとんどのクラスメイトたちが降りてるっぽいのがわかってちょっと慌てていたのもあって、うっかりペットボトルを床に落としてしまった。
「あっ、」
「あららぁー、拾ったげるよ~」
慌てて拾おうとしたペットボトルには、もう由梨の手が重なっていて。
だから私の手は自然と由梨のを包み込むような形になっていた。
「――――っ」
「あ、ごめんごめん。ありがとね」
びっくりした様子の由梨に軽く謝りながら、ペットボトルを受け取ろうと手を伸ばす。……ん、どうしたんだろう。何か固まってる。あっ、もしかして爪とか当たった?
「由梨、大丈夫?」
「へっ!? う、うん大丈夫! はい、これ。気を付けなよ~?」
そんな風に言われながら、なんとか荷物をまとめ終わる。それから慌てて新幹線を降りて、ようやくプラットホームに全員揃った。
線路の上を見上げると、新幹線に乗り込んだときは明るかった空がすっかり暗くなっていて、風ももう冬の気配が忍び寄っている冷たさだった。それからは、先生たちがお決まりの言葉を行ったり、修学旅行の実行委員たちに拍手したりして、そのまま解散になった。
「さて、と」
私と
「あれ、佳乃んちは今日もお母さん仕事?」
「そ。だから私はバス待ちかな」
「そっか~、荷物多いのに大変だね」
友紀はうちの事情に、あんまり深入りするようなことは言わない。そんな深入りしなくてちゃんとわかってくれているから。距離感とかも、間違わずにいてくれる。
「うちはね、家族が迎えに来てくれてるんだ。あっ、ていうかもう来てる?」
慌てたように走り出す一歩手前で、「よかったら一緒に乗ってく?」と私に行ってくれたけど、それは断った。あの車を運転しているお兄さんとは、ちょっと顔を合わせにくいから。
「そっか、じゃあまた学校でね!」
「うん」
「ばいばい!」
言いながら、手を振って車に乗っていく友紀。エンジン音が遠ざかって、わたしはひとりで残った。
辛うじて西の空には、まだ最後の光が燃えているみたいだ。その周辺だけが明るく輝いて、だからこそ余計に東側だったり、建物に遮られた場所の暗さが浮き立つけれど、そんなのは慣れている。
ただ、やっぱり。
「楽しいことが終わると寂しいよね」
また次を待たないとなぁ。
「ほんとだよね」
「えっ!?」
後ろから聞こえたのは、由梨の声。えっと、
「わたしも佳乃にあんなかっこつけたこと言ったけど、何かね。やっぱり楽しい行事が終わると、寂しくなるよね。たぶんこうやって一気に今のままじゃいられなくなるんだろうな、って思うとさ。ちょっとね」
そこで一旦言葉を切った由梨の顔は、昔のことが話題に触れたときと似たような顔をしていて。あぁ、終わっちゃうのを残念がっているんだな、っていうことが何よりもよくわかった。
「でね、そんなこと考えてたら佳乃の顔見たくなっちゃって。
「そ、そっかぁ……」
う~ん、御影さんはたぶん面白がってそうだなぁ……。
「だから、来ちゃいました! びしぃっ!」
何故か敬礼みたいなポーズをとる由梨に思わず笑っていると、「よかった」と声が聞こえた。
「え?」
「何か、バス停にいる佳乃、全然笑ってなかったから。だから、笑った顔見られてよかったな、って♪」
西から燃え広がる、今日最後の光。
そこに浮き上がった由梨の嬉しそうな、晴れやかな笑顔こそ、見られてよかった笑顔だよ。どうにかその言葉は押し込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます