Program10. ゆれて、ゆれる。

 買い物の時間が終わって、いよいよ帰りの新幹線に乗ることになった。

 いまは、その待ち時間。みんな思い思いに自分の買ったものとか、この旅行で楽しかったこととかを話している。

「ねぇねぇ、佳乃よしのは何が楽しかった?」

「んー、色々あったけど、やっぱり水族館かな。友紀ゆきは?」

「あ~やっぱり。ん~、うちもけっこう水族館楽しかったかも。まぁ、あれかな。迷子が出なかったらもっと楽だったろうけどね~」

「うっ、それは……」

「ま、探してる間も愛衣めいといろいろ話せてて楽しかったっちゃ楽しかったんだけどね?」

「何か気になるなぁ、それ……」

 友紀は「ふっふっふ~」と意味ありげに笑って見せているけど、うん。たぶんこれ特に気になるような話はしてないのかも知れない。


 由梨ゆりの方はというと、愛衣――御影みかげさんと話しているわけでもなく、別のクラスの人と楽しげに話している。

 ついその笑顔の雰囲気をじっと見てしまう自分が、少し恥ずかしくなる。思わず視線を逸らして、そんなことをした自分を誤魔化すように大袈裟に伸びをしてしまう。

「佳乃、どうかした?」

「う、ううん? 何でもないよ」

「ふ~ん」

 ……心配そうにこっちを覗き込んできた友紀は、私のそんな釈明で納得してみせてくれた。また何事もなかったかのように「あ、それでさ……」と別の話を始めてくれた。

 たぶん、心配はしていてもあんまり深くは入ってこない友紀のそんな距離感が心地いいんだと思う。昔から、たぶん友紀のそういうところに助けられてきたような気がする。

「ありがとね」

「ん、どったのいきなり?」

「えっ? えっとね、あー、楽しかったから……かな?」

「ふ~ん、そっかそっか。ま、それはウチもだから。ありがとね、佳乃」

「うん」

 何だろう、この旅行で由梨と2人になってから、ちょっとだけ人に対して日頃思ってることを伝えるって大切なのかもしれない――って思い始めている。


 たぶん、由梨が旅行中に見せてくれたいろんな、今まで知らなかった顔が理由だ。ちょっと調子がおかしいとかそういうことを言うつもりじゃないけど、うん。きっと、何かが変わったんだろうな。

 お城で見た顔だとか、水族館で2人になったときの顔とか、そういうのがスライドショーみたいに蘇ってくる。あぁ、今までこんなことなかったんだけどなぁ。


「まっ、あれだね。佳乃が楽しそうでよかったよ!」

 言いながらポンポンと頭を軽く叩いてくる友紀の笑顔はとても優しくて、何だか照れくさい。こういうところも、昔から変わんないんだよなぁ……。


 先生たちが点呼を始めて、それから数分後。

 プラットホームに到着した新幹線に乗り込んで、わたしの隣、窓側の席には由梨が座って。

『これからいろんなことを佳乃と見ていきたいから、別に旅行自体は終わってもいいかな』

 昨日の夜に話したことを思い出してちょっとだけ頬が熱くなるのを感じながら。

 それでも少しだけ感じた名残惜しい気持ちごと乗せて、ゆっくりと景色は流れ出した。

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