Program8.よく晴れた空を

「それって、“知りたい”って気持ちを認めてくれてるみたいじゃない?」

  そう言う由梨ゆりの瞳はとても強く見えて。

 そんな目をされたら、私だって色々考えてしまう。私にも、もっと知りたいことがたくさんあるんだから。


 何か返事をしようと思ったけど後が詰まってきたから、私たちは一旦お城を出ることにした。でも、それでよかったかも知れない。言いたいことはあっても、それを言葉にする勇気は、たぶんお城を出るまでの間ですら形にできなかったから。


 お城を出たら、もういよいよが現実味を帯びてくる。

 案外、それって帰りの電車に乗る時よりも、こうしてお土産を選んでいるときなのかも知れない。一昨日も班のみんなで噴水を見た公園の近くの商店街でお土産を選んだりした――そのときに由梨とお揃いで買ったご当地真顔猫様まがおねこさまキーホルダーは、今まさに私のバッグで揺られている――けど、ここは、本当に凄いところだ。

 アーケード商店街、っていうのかも知れない。アーケードがかかった大きな1本の通りを歩いていると、いろんなお店が見えて、いろんなものが売られているのが見ようとしなくても目に入る。

 ここに来れば、クラス行動とは言われてるけどほとんど自由行動みたいなもので、商店街から出なければそれなりに動き回れる。そうなるとやっぱりみんな考えることは一緒で、ほとんど班行動みたいな感じになっている。

「じゃ、ちょっと見てくるね!」

「由梨と姫川さんも、ごゆっくり~」

 友紀ゆき御影みかげさんは早々に連れ立ってアクセサリーとかの小物を扱ってるお店に行ってしまったから、私も由梨と2人で手近なお店を見て回ることにした。一昨日みたいに小物とか、あとは家族みんなで食べるお菓子とか……色々買うものを考えながらお店を見ていると。


「ねぇねぇ佳乃よしの、あれ見て」

 袖を引く由梨の声が、わかりやすく弾んでいた。


 由梨が指差す先にあったのは、有名なシュークリーム店の移動販売車。黄色い車体にお店のロゴマークがペイントされた、これ以上ないくらいわかりやすい車だった。

「確か、こないだ新しいやつ出たんだよね。あるかな?」

「食べたいの?」

「うん!」

 うん、とってもいいお返事。たぶん犬だったら尻尾をこれ以上ないくらいに振ってるんだろうな、と思うようないい笑顔。少し涼しく感じる風に揺られるスカートが本当に尻尾みたく見える。

「ねね、佳乃も一緒に食べよ?」

「もちろん」

 由梨ほどじゃないけど、私だって甘いお菓子は好きだ。特にこのお店のシュークリームはちょっと香ばしく味付けされたカリカリのシューとクリームの味が人気で、他人事みたいに言っている私も幼い頃から大ファンだったりする。

 幸いにしてそこまで人は並んでなくて、すぐに買えた。

 ちょうど近くの、大通りから1本外れた小道にあったベンチに2人並んで座る。

 触っただけでわかるカリカリしたシューの感触に、思わず頬が緩む。その様子を見てた由梨から「佳乃ってほんとに意外性の塊だよね~」と笑われてしまった。


「そうかな」

「そうだよ」

 む、どんなイメージを持たれてたのかわからないけど、変に幻滅させてそうで気になる。

「何かね、佳乃って可愛い人だったんだな、って思ったかな~」

「――――っ!?」

 自然体な笑顔でそういうことを言われると不意打ちを受けたみたいになってしまう。慌てて意識を逸らそうと見上げた先には、そんな私の慌てようなんてどこ吹く風とばかりにオシャレな外観というイメージをそのまま形にしたような家壁をフレームにするみたいに、朝の淡さが抜けてきた青い空が映っていた。

「さっきの仕返しだよ、佳乃。わたしの恥ずかしさ、思い知ったか」

「思い知りました……」

「ならよろしい」

 ふふー、とドヤ顔混じりに笑う由梨。ほっぺたにクリームが付くなんていう今時あんまり見かけない光景も、由梨ならどうしてか許せる。


「ねえ、佳乃?」

 少し外れているとはいえ大通りからかなり近い位置にあるとは思えないくらい静かな路地裏。ベンチに座ってシュークリームに舌鼓を打っていると、由梨がぽつりと口を開いた。

「うん、どうかした?」

「どうかした、ってことでもないけど……。ちょっとお話したくなってさ」

 ふふ、と薄く笑う由梨の顔は、昨日水族館で見たのと似た笑顔だった。


「ほんと言うとね、たぶん最初、わたし佳乃のことちょっと怖かったんだ」

 由梨の瞳が少しだけ遠くを見たような気がした。

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