Program6.夜風を感じて

 水族館を出て、ホテルで夕食を食べて、今日も友紀ゆきと2人部屋に泊まる。せっかく2人でいるのだから普段できない話を……と周りの人は思うのかも知れないけど、正直友紀とは小さい頃から一緒にいるから、こういう場所で改めてする話も特にない。


 それについては友紀もそう思っているみたいで、「今日さ、どこ楽しかった?」とかそういう、ほんとにみんなの前でしても大して変わらないような話が続く。私は言うまでもなく水族館だったけど、友紀もどうやらそうだったらしい。


「何かさ、佳乃よしのたち捜してるときに愛衣めいとちょっと色々話したりしてね? 何ていうか、うん。お互い苦労してるんだな、みたいな?」

「えー、何それ? ていうかそんな話してたの?」

「ふふふー、大人には色々あるんだよ、よしのん?」

「小さい頃みたいな呼び方は恥ずかしいからやめて」


 ていうか、大体私たち同い年だし……。なんていうツッコミが心に浮かんだけど、それは言わない約束なのだろう。

「あっ、今日あれやってんじゃん。見よ見よ」

 、というのは今放送されているドラマ『ぼくと妹のiに満ちた日々』のことだ。一見するとハートフルな兄妹の話みたいに見えるけど……というギャップでそれなりに意見が分かれているドラマで、友紀にはハマったみたいだ。

「ていうと佳乃は全然みたいじゃん」

「まぁ、録画勢ですけどね」

「微妙にドヤらなくてもいいから」

 そんな会話をしながら、友紀はどんどんドラマの世界に入っていく。おぉ、生粋のマイペース……。

 そんなことを思いながら一緒にドラマを見ていたら、スマホが音を立てた。

 見てみると、由梨ゆりからのメッセージ。


『どっかで話したいな』


 何となく、私たちは気が合うのかも知れない。だって、ちょうど私も由梨のことを考えていたから。

 昨日の夕方に御影みかげさんから聞いた話だったり、今日由梨から直接聞いたことだったり。私の知らない由梨が次々に出てきて、まるで今までの時間が由梨に比べて薄っぺらいものになってしまったみたいな感じがして。

 もっと、知りたい。

 もっと、話したい。


 そんなことを、思っていたから。


 由梨の部屋に行くと、御影さんはいなかった。

「あれ、御影さんは?」

「ん、愛衣はね、彼氏くんと通話中だよ?」

「あぁ、いるんだ」

「けっこう長いんじゃないかな? 3ヶ月くらい続いてるってすごくない?」

「い、いや、あんまわかんないけど」

 その言葉にも引っ掛かりを覚えてるなんて言ったら、由梨はどんな顔をするかな。3ヶ月が凄いって思えるような経験があるの、なんて。


「――」

「ん?」

 思わず言葉に詰まったのを、心配されてしまう。

「何でもないよ。明日で最後だね、旅行」

「そだねー」

「終わんなきゃいいのに」

 そうすれば、もっといろんな由梨に触れられる。

 そうやって、ちょっとずつ知っていけるような気がするから。

 思わず言ったことに、由梨は首を傾げた。

「う~ん」

「ん?」

「いや、旅行そのものは終わってもいいかな、って」

「そう?」

 その言葉に、ちょっと寂しさを覚えて。

 何とか会話の流れを変えようと言葉を探して。

 でも、迷っている私とスラスラと思ったことを言う由梨とでは、やっぱり由梨の方が速く次の言葉を出せる。


「だって、佳乃ともっといろんなこと知りたいし。だって、今年の春知り合ったばっかだよ? 冬とかも遊んでないし、もっと色々しよ? 佳乃とだったら、何かね、何でも楽しそうな気がする」


 ずるい。

 ふと、そう思った。

 私だと躊躇して言えないようなことを、そうやってはっきり言ってしまえるところが、本当にずるい。

 だから、私もそれに答えたくて、ちょっとだけ言う。


「私も、その方がいいな」

「でしょ?」


 そう笑った由梨の顔は、とても可愛らしくて、やっぱり眩しかった。

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