5 魔法少女3
壁の外は、見渡す限り一面の緑だった。
木と
しかし――どこまでも広がる緑の大地を、私は美しいと思った。
壁の周囲は定期的に人の手が入っているのか、植物による侵食はほとんどないようだった。その中でも一際目立つポッカリと開けた広場に、数十人の男女がたむろしているのが見えた。槍や斧などの武器を手に持ち、ファンタジックな装備を身に付けた姿が目立つ。
あそこにいる全員が眷属なのだろう。
私と空手の魔法使い様はその広場の真ん中に降り立った。
「皆さん、お待たせしたっす。今日は新しい仲間を紹介するっすよー」
皆の視線が一斉に集まり、小さなどよめきが起こる。
「彼女は……あっ、えーと……それじゃあ本人に自己紹介してもらうっす!」
今の変な間は一体何だったのだろうと思いつつ、名前を名乗ろうとして気が付いた。
そうだ。私、女の子だった。
いやずっと昔から心はオトメだったけど。
今は心だけでなく体もバッチリ女の子なのだ。出るところも多少は出ている。
昨日からずっと魔法少女になることだけを考えていたせいで、変身した後の名前のことなど完全に頭から抜けていた。
ショウ……は女の子の名前としては不自然かもしれない。しかし、「名前は後で考えます」なんて言ったら怪し過ぎるし……。
じっと押し黙っている私を見て、周りの皆がざわめき始めた。まずい。とにかく何か……何でもいいから名乗らないと。
「はじめまして、ショウコです。魔法少女です。よろしくお願いします」
魔法少女ショウコちゃん誕生の瞬間である。
ああ……とっさに出てきたのが元の名前のショウに子を付けただけとは……我ながら
しかし皆の反応を
そうか、かわいいか……かわいいよね。正直自分でもかなりかわいいと思ってた。
ところで小さいっていうのは身長のことだよね?
「えー、では自己紹介も終わったところで、さっそくお仕事の時間っすよ。今日は久しぶりに三人組をやるので、好きな人と組むっす。組めたらリーダーは発煙筒を受け取りに来るっすよー。あ、成績上位の二人はショウコちゃんと組んでもらうので集合っす」
三人組という単語に一部の眷属から悲鳴のような声が上がる。
この場に知り合いがいない私は空手の魔法使い様の
「普段は四班くらいに分けてローラー作戦みたいに街の周りを周ることが多いっすけど、今日やる三人組は害獣の駆除というよりも自己鍛錬の意味合いが強いっす。三人という少数で探索するので、害獣との戦いで得られる経験はより濃いものとなるっす。その分危険も増えるっすけど、ショウコちゃんには優秀な眷属の二人と組んでもらうので問題ないっす。ついでに自分もついていくので安心するっすよ」
空手の魔法使い様の説明を聞いていると、先ほど呼ばれていた二人が集まってきた。
「どうもどうも、
……いきなり強烈なのが来た。
先に声をかけていた男の人……カラオくんは、「
坊主頭にハチマキを締め、分厚いぐるぐる眼鏡をかけている顔はまるで昔のガリ勉キャラのようだが、タンクトップ一丁の体はボディビルダーのごとく鍛え上げられており、下は建築現場の作業員が履くような太いズボンに
「……どうも。ショウコです」
「いやあ、ショウコ殿はなんというか……すごい服でやんすね! びっくりしたでやんすよ」
「あはは……」
確かに目立つ服だけど! 他にこんなの着てる人いないけど! あなたのキャラも相当アレだからね!
と心のなかで突っ込んでいると、女の人がすぐ近くで私の顔を見つめていることに気が付いた。
どうやら呼ばれていた二人のうちのもう一人のようだ。
彼女は灰色の髪を耳の下くらいで切り揃えており、目の色も髪とおそろいの灰色だった。
オリーブ色のジャケットとパンツに黒いブーツという軍人のような服装はかなり地味で、顔と首以外で肌が見える部分は
しかし何より目を引いたのは、その手に持っている槍だ。彼女の身長よりも長い槍は、黒い
しげしげと槍を見ていると、不意にその持ち主と目が合った。
元々目つきが悪いのか、それとも
すると、その
「やだもう可愛い~! えーうそホントにお人形さんみたい! うわーすごーいお肌すべすべ~!」
……私は抵抗する暇もなくガッチリと抱きしめられ、頬ずりされていた。
先程まで抱いていたお固い軍人さんのイメージが一瞬で崩壊していく。
というか胸がゴリゴリして痛い……。
「ちょっ……何か当たってる……」
「あ、ゴメンね。下に防具付けてるから……ってうわー目も宝石みたい……ていうかすごいねこの目の奥の模様……ホント綺麗……」
「近い近い!」
「むぎゅ。あはは、何度もゴメンね。アタシ可愛いものに目がなくてさー……」
唇が触れそうな距離まで接近され、慌てて顔を押し返す。
魔法少女に変身すると精神も強化されるため、多少のことには動揺しなくなるはずなのだけれど、今のはさすがに驚いた。まだちょっと心臓がドキドキしている。
しかし次の彼女の言葉には、そんなドキドキを吹き飛ばすくらいの衝撃があった。
「そうだ、アタシりりのっていうの。よろしくね、ショウコちゃん」
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