5話ー過去の話(2)ー

 昨日は、散々だった。彩芽と昴のいい所を色々と挙げてる最中に「二人だけに言うのは不公平」と、謎理論を立て「私にも言って」と葵にも迫られた。

 最終的には、三人に、百個近く彼女達の魅力的な所を答えた。多分幾つかは被っていたかもしれないが、彼女達は、納得してくれた。

 気づけば、入学してから五日間も授業をサボってしまっていたのだ。

 って、しまっていたでは済まされない!なので、今日は、まともに授業を受けていた。

 当然のごとく葵はいなかった。彼女は、卒業できるだけの単位を全て習得したとのことで、平然と欠席してる。

 今日は、小テストの日だった。

 流石にやばいかと思ったが、意外にも余裕に解けてしまっていた。それも、呆気ないくらいに。


(おかしいな?これ、俺が中学の時に全て解いたことのある問題だな。なんでだ?)


 俺以外にも余裕そうにしているのは、昴だけだった。他の女子達は、頭を悩ませ考えている。

 後で知ったのだが、実は俺の育ての親の田中夫妻は、俺に物凄い英才教育をしてくれていたのだ。

 小学生から大学生までのありとあらゆる勉強に、スポーツ、習い事を中学三年生になるまでに、全部習得させてくれていたのだった。

 それを知ったのは、もう少し後のことだった。

 なので、俺は当たり前のように全てを解き、なおかつ満点を取ったのだ。

 先生は、俺を見て忌々しい目で睨んでいた。

 そりゃそうだ、入学してすぐサボってたやつが満点なのだ。そういう風に見られもなんら不思議ではないのだ。

 本当にすいませんでした!今度からは気をつけます!




 ちなみに、このテストで最下位だったのは、彩芽だった。


「彩芽、そんなに落ち込むなよ」

「0点だった」

「え?」

「0点だった」

「お前、あれは確かにいやらしい問題もあったが、中学生レベルで溶ける簡単な因数分解の問題があっただろ?」

「私、勉強は結構からっきしで赤点ギリギリくらいしか取ったことない」

「彩芽、今から図書室に行って勉強するぞ」

「え⁉︎芽依が見てくれるの!私の勉強!」

「ちょっ、声が大きい!」


 彩芽が、思っいきり大きな声を出したものだから周りの女子達も、私も私もと騒ぎになってしまった。


「とりあえず、ここから逃げるぞ!」


 とっさに、彩芽の手を取り走り出していた。

 彩芽は、最初こそ動揺していたが、だんだん楽しそうに一緒に走っていた。

 なんか、こういうのもいいな。

 少し心の中から温かいものが溢れてくるのを感じた。


「ねぇ、なんで二人だけで楽しい空間作っちゃうの?」


 唐突に、昴の声がしたので驚いて後ろを向くと、他の女子達は見えなくなっていたが、昴だけは息も切らさず余裕な表情で走っていた。


「昴、お前ってもしかして、、、頭も良くて、運動も得意だったりする?」

「そこで、そろそろ限界そうな彩芽さんよりはあると思うよ」


 彩芽を見てみると、もう限界そうだった。

 取り敢えず、当初の目的だった図書室には着いた。


「さて、勉強するか」

「鬼!もう少し休ませてよ!」

「わかったよ。もう少し休んでからな」


 俺は、つい彩芽の頭を撫でてしまった。同学年の異性に頭を撫でられるのは嫌がられるかと思ったが、案外喜んでいた。

 改めて、彩芽をみるとやっぱ可愛いな。

 綺麗な雪のように光輝く銀色の髪はセミロンで、ツーサイドアップに決めている。瞳の色は、晴天のように澄んだ綺麗な青い色で少しツリ目がちだけど憎めない可愛らしさがある。

 背丈は俺より頭二つ分低めで、たまに来る上目遣いが特に可愛いんだよな。

 身体のラインとか出る所は出てるし。

 まあ、昴には、負けるけどな。

 って、昨日のせいで、また余計なことを考えてしまったな。

 苦笑いを浮かべていると、隣から抗議の目が飛んできた。


「彩芽さんだけ、ずるい」

「わかったよ」


 今度は、昴の頭を撫でてあげた。昴の髪もすごく触り心地のいい触感だった。

 昴は、星空のようにきれない黒髪で、ショートで決めている。毛先の部分が癖っ毛で、少し跳ねている所も可愛い。

 瞳の色は、髪の色と同じ黒色で見ていると吸い込まれそうになるほど綺麗な色だ。少しおっとりとしたら瞳の持ち主だ。

 背丈は、俺と同じくらい。しかも頭は、俺と同じくらい良いい。

 しかも、運動神経は俺よりもいい。

 俺よりイケメンじゃん。

 うっかり惚れそうになっちまった。

 と、こんな所かな。二人の特徴とえば。

 自分で、言ってなんだけど、なんで俺なんかをこんな絶世の美少女が三んも好きになってくれるなんて、どう言うことなんだ?


「なあ、茶化さないで答え欲しいんだけど、俺の事故って単なる事故だったのか?」


 確かに、事故の後、記憶の前後が失われた。

 彼女達、三人の記憶を。

 それならば、三人に何らかのトラブルがあって、事故が発生した為、その事を無意識に思い出さないようにしたのでは無いだろうか?

 彼女達の事を思い出すには、事故のことをもっと深く知らないといけない。


「私にはわからないわよ。あの時は、田中さん夫妻が、私の篠崎家、葵の日比野家、昴の星乃家を招待してあんたのバースデーパーティーを開いくらいしか」

「そうそう、その時の芽依くんもすごく凛々しくてカッコよかったんだよ!」

「ごめん、昴、話の腰を折らないでくれ」


 昴は、すごく落ち込んだがそれどころじゃない。事故発生時に彼女達三人と俺があっていた確証が得られた。

 しかも、俺の育ての親の田中夫妻が招待したのだとか。

 その後も彩芽は色々と過去の話しをしてくれた。聞いた話をまとめると、彩芽、葵、昴、そして俺は、それなりに仲の良い友達だったとか。

 篠崎家、日比野家、星乃家、そして俺の一ノ瀬家は、日本の古い貴族の家系で華族だったらしい。華族とは、明治二年から昭和二十二年まで続いてた近代日本の貴族階級のことだ。

 その時から、この四家は非常に仲が良かったらしい。

 ちなみに、頭が少し弱い彩芽さんは"華族"を"家族"だと思ってたらしい。

 後で、ちゃんと日本史を教えてあげるから。

 そして、そんな楽しい関係が終わる日がきた。

 パーティーの最中、四人で色々な遊びをしていた俺達は、家の門を破壊してつっ込んできて軽自動車が向かってきた。

 三人を助けようとした俺が、その場で引かれてしまったのだ。

 事故の原因は、運転手が薬物をやっていて、事故当日意識を失ったため、民家につ込んだということだった。


「私は、それぐらいしかわからなっかた」

「うん。ボクも、そういう理解だったよ」


 一件不幸な事故に見えるが、なんか引っかかるだよな。ただの偶然にしては出来過ぎてような。


「そういえば、その時には彩芽と昴、葵は、俺が一ノ瀬家の息子だって知っていたのか?」

「知ってたわよ。だから、田中夫妻は私達を呼んだんじゃない」

「うん。ボクも知ってたよ」


 やっぱり、三人は俺のことを知ってたのか。

 でも、この三人の家は多分無関係だよな。俺をたった一人消すために自分の娘を殺す親はいない。確か、一ノ瀬家には刺客が来ていたと言ってたな。そいつらの仕業って線が強そうだな。

 てか、一介の高校生が探偵の真似事してもって話だよな。


「そのあとは、芽依が死んだって聞かされて、私達は初恋の相手に逃げられた気分だったわけよ」

「だから、テレビ見てびっくりしたんだよ!芽依くんが生きてるって!それで、ボク達は三人で話し合って芽依くんを守ろうって話になったんだよ」


 その事故で俺は大怪我負って病院に運ばれ、そこで死んだことになっていたらしい。

 仮にも一ノ瀬家のご子息だ、命を狙われてたんじゃと思っての行動だろう。

 それで、三人との縁が切れてしまったのか。


「俺を守るって、何を言ってんだよ。みんなを守ってこその男だろ?」

「確か。昔もそんなこと言ってたな」

「そうそう、その後死んじゃうだもん。すごく悲しかったんだよ。生きてたけど」


 二人とも、目元を少し潤ませていた。だから、俺は二人ともを優しく抱きしめてあげていた。

 それだけだったんだが


「へー。二人は、抜け掛け、抜け掛けと人には言っておきながら、芽依君とイチャイチャしてるのね」


 氷のように冷たい、葵の目がそこにあった。

 黄金色の綺麗な長い、ロングヘアーの髪がいつも整えていはいないのだが、いつにも増して逆立っていた。

 エメラルドのように綺麗な翡翠色の瞳は、いつもの無機質さを消して怒りに燃えていた。

 背は俺の肩くらいなのだが、今では俺より大きく見える。

 二人は、怯えて俺の後ろに隠れていた。てか押すなよ!俺を生け贄にするきか⁉︎さっき俺を守るとか言ってた口は何処にいった!


「は、話せばわかるって!な!葵!」

「で、、、く、、たら」


 声が小さかったので、もう一度聞き返すこにした。


「え?もう一回お願いできる葵さん?」

「デートしてくれたら、許す」


「「デートはダメ!」」


「抜け掛け」


「「うぐ!」」


 俺の代わりに二人が答えたが、バッサリ切られた。

 そんなことで、許してもらえるなら安いか。


「わかったよ」


「「え!なんで⁉︎」」


「許してもらえるなら、それぐらいお安い御用だ」


「「じゃあ、私達も!」」


「抜け掛け」

「ごめんって言ってんじゃん!許してよ!」

「ボク達も、芽依くんとデートしたいよー!」

「わかった、わかった、あとで、みんなしてやるから」

「芽依君は、そうやって誰にでも優しくする」


 少し葵が、拗ねている。可愛いな。


「誰にでもじゃないよ、彩芽に葵、昴だからこんなに優しく接することができるんだよ」


 俺は、精一杯の笑顔でそう答えた。

 なんか青春らくしなってきたな!

 だから、さっき引っかかたのも気のせいだ!そういうことにしとこう!

 この時、もう少し探りを入れていれば、もっといい方向にに進んだのかもしれない。

 そう、未来の俺は思ってしまった。ここが分岐点だってことを。

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