魔法少女モヒカン☆ザコ

ナメクジ次郎

Welcome to ようこそ世紀末

 私の名前は円谷円!私立中学に通うごくごく普通の女の子で、大きな事件や変わった事なんて全く縁がなかった……はずなんだけど。


「はぁっはぁっはぁっ」

「ヒャッハー!女だー!」


 今現在、モヒカン頭で肩パッドを付けた変な人たちに追われてます!


「どど、どうして!? さっきまで普通に帰ってたはずなのにー!」


 そう、さっきまで、本当につい数分前までは見慣れた街を歩いてたはずなのに、気づいたらこんなことに。わけがわからないよ!


「どこを見渡しても壊れた建物ばっかりだし、どこに逃げたらいいのー!」


「こっち!こっち!」


 そうやって逃げ回っていると、突然横の方から声がしました。

 もしかしたら救いの手が! そう思ってそちらへ逃げたのを、私は後ほど後悔することになるのです……。



 * * *



 その声が導くままに、近くにあるビルに逃げ込みました。私を追っていた人たちからは逃げきれたようですが、声の主は一体……。


「いやー、助かったみたいでよかったよ」

「あなたは……」


 奥から出てきたその人は、よく見慣れた顔でした。

 短めの青い髪に綺麗な青い瞳、それにすらっとした体……そう、私のクラスメイトの青木沙耶ちゃん、なんですがその、恰好が。


「どうしたのさ? 固まっちゃってさ」

「だって沙耶ちゃん、服が……」


 そう、その服装がとても、とてもパンクな……具体的に言えば肩パッドに、トゲトゲしくカットされた袖、そしてズボン、これは確実に。


「まさか沙耶ちゃん……」

「あっ、気づいちゃった? 勘がいいねー円も」


 まさか沙耶ちゃんもだなんて……逃げなきゃ、きっと沙耶ちゃんも外の人達みたいに。


「実はさー、なっちゃったんだよね、魔法少女」

「えっ?」


 魔法少女……?


「ん? 何さ素っ頓狂な声出して、どこから見ても魔法少女でしょ、この恰好はさ」

「えぇ……いや、そうなの?」


 魔法少女っていうかどちらかと言うと世紀末覇者みたいなんだけど……。


「いやだなーもしかして疑ってるの? ほんとだって、ほら魔法も使えるんだよ、こうやってさ! どーだ炎属性!」

「いやそれ火炎放射器だよね!?」


 どこからともなく火炎放射器を取り出してドヤ顔をキメる沙耶ちゃん、それは絶対炎属性の魔法ではないと思うよ。


「わー、す、すごいね」

「ふっふっふ、凄いでしょー」


 沙耶ちゃん、クラスで一番残念な子だと思ってたけど、まさかここまで残念だなんて。


「全く沙耶、そうやって無暗に魔法を使っちゃいけないって言っただろう? 魔力だって回復するとはいえ有限のリソースなんだ、資源は大切にしないとね、世紀末的にも」


 ビルの奥の方から声が聞こえた、かなり高めの少し無邪気さを感じるような声で、他の魔法少女なのかな。


「あっ、十兵衛」

「じゅうべえ?」

「うん、魔法少女につきものの、マスコットみたいなやつだよ、出ておいでよ」


 じゅうべえ……マスコットにしてはちょっと渋すぎる名前のような気がするけど、どんなのだろう、声は確かにマスコットっぽかったけど……。


「どうも、十兵衛です」

「オッサンじゃん!」



 * * *



 マスコットとして出てきた十兵衛が、まさかの冴えない感じのオッサンでした、しかも声だけ可愛くて気持ち悪い。


「ほらもー、十兵衛がスーツなんてキッチリした服で来るから円が緊張して固まっちゃったじゃん、もっとラフでいいんだってー」

「いや、これでも仕事だからね、正装はしないと……」


 そういう問題じゃ、そういう問題じゃないんだよ沙耶ちゃん。その人はマスコットじゃなく不審者だよ沙耶ちゃん。


「そっれにしても、なんで魔法少女じゃない円がこっちに居るの?」

「ううん、多分、何か素養があってこっちに来ちゃったんだと思う」


 あっ、なんか大事な話始めてる。

 でもこう、絵面が完全に犯罪的なそれだよ……。


「だとしたら円も?」

「そうなるね、なるべく向こうの意思を尊重したいけど」


 待って今凄く不穏なワードが聞こえたんだけど、私あんな世紀末ファッションは嫌だよ?


「円、というんだっけ、君はどうやらこの世界に選ばれてしまったみたいなんだ、これから先も、意図せずにここへ迷い込んでしまうかもしれない、だから自衛手段を得るという意味も込めて、僕と契約して、タッポ……魔法少女になってほしいんだ」

「今たっぽいって言いかけたね!? どっちにしてもお断りします!」

「「ええっ! どうして!?」

「むしろなんでさっきまでのやり取りですると思ったの!?」


 このオッサンと同級生、もうダメかもしれない。


「ほ、ほら、契約して魔法少女になるために必要なアイテムも用意してあるんだよ、これこれ」


 そう言って十兵衛はポケットから手のひらサイズの何かを取り出します、もしかして魔法のコンパクトみたいなものが!?


「もしかして変身アイテ……ム……?」

「いいえ、契約書です」

「なんで折りたたんでるの!? 嫌だよ折ってある契約書なんて!」

「仕方ないじゃん! ポケットに入れてるんだし!」

「鞄でもなんでも用意すればいい話じゃない!?」

「「……その手が!!」」

「今気づいたの!?」


 最初から不安だったのに、余計に不安になってきた、もう帰りたい……。


「契約なんてしないからもう帰して!」

「帰して、と言われてもこの空間が自然消滅するまではどうにもならないからね、だからさ、ほら、魔法少女のステッキだけでも見ていってよ……」

「必死か! どうせロクなものでもないんでしょ」

「まあまあ円、見ていくだけでもさ、営業しないと十兵衛も妻と子供を養っていられないみたいだし」

「……まあ、そういう事なら見るだけ、本当に見るだけだからね」


 給料出てるの?と口からでそうになったけど、もうつっこまない、この人たちはつっこんでると疲れるタイプの人だ。


「それで、杖っていうのは?」

「ええとですね、これです」


 そうやって、またどこからともなく取り出したのは、えらく金属の色が出てて、先になるほど太くなっていって、それでいて大量の突起が付いた……。


「トゲこん棒じゃん!」

「いえいえそんな、トゲこん棒なんて、魔法のステッキですって!」

「こんな物騒なステッキないよ!」


 ちょっとだけ期待した私がバカだった!


「もういい! 私帰る! 帰れないんだった!」

「円~、落ち着きなって~」

「沙耶ちゃんはいいよね気楽で!」

「いや~それほどでも」


 褒めてない!もうやだこの同級生怖い。


「早く帰りたいよぅ……」


 そう言うと、思いが神様に届いたのか、周囲の空間が歪み始める。

 よかった!これきっと帰れる予兆だよ!


「おや、どうやら自然消滅の時間が来たようだね、これでやっと帰れるよ」

「よかったな~円」

「うん……本当にね」


 やっと解放される。 すぐに帰らなきゃ。


「あっ、これ契約書だから、もし魔法少女になりたくなったらお母さんのハンコ貰ってから郵便局経由で郵送してね!」

「いやー! なんか最後に悪あがき始めた! 妙にリアルな方法の契約書を渡さないで! というかなんでお母さんのサインが要るの!?」

「頼んだよー…………」


 その言葉を最後に、私の周囲の景色も、沙耶ちゃんと十兵衛も消え、いつも通りの景色が戻ってきた。

 あれは夢だったのだろうか? いいや、そんなことはない、だって私の手にはあの契約書が握られているのだから。つまり私がとるべき行動は一つなのだ。


「早く帰って晩御飯食べよ!」


 そして契約書を破り捨てた、帰路に就く私の足取りは、軽い。

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