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「ユイちゃん、結婚して子供出来たんですってね」

「そうなのよ~あのユイがねぇ、嬉しいわよねぇ」

「はい、二ヶ月くらい前に会ったんですけど、凄く幸せそうでした」

 偶然店先で会った時の、愛しそうにお腹を撫でるユイちゃんを思い出す。本当に優しい、綺麗な笑顔だった。

「もう五ヶ月だから、今は結構お腹出始めてるわよ」

「え、そうなんですか?」

「昨日写真を送ってもらったのよ。ユイは細いからあまり分からないけど、ちゃんとお母さんのお腹になってた。見る?」

 うん、とも、見る、とも言う前に、郁さんが小さいバッグからスマホを取り出して画面を俺に向けた。そこには笑顔でピースサインをするユイちゃんと旦那の姿があった。円満な夫婦、とはまさにこの二人の事を言うのだろう。

「本当だ、少しお腹出てますね」

「あと半年もしないうちに生まれると思うと、楽しみで仕方ないわぁ」

 そう言う表情には、まるで妹を思う姉のような雰囲気を感じた。

「ユイが店に来た時は本当に心配になるくらいガリガリで、怖いくらいに静かだったのよね。愛嬌もあって笑顔も可愛いのに、自分の事を大事にしていないと言うか。自分からは何も言わないし、頼ってこないし」

 まぁそうなってしまった理由が理由だからね、と郁さんは続けた。

「でも、強い子だった。裏切られたって捨てられたって知っているけど、生きるって強さは持っていたから」

 郁さんはユイちゃんの教育係を任されていたらしい。沢山傷つけられたユイちゃんを間近で見ていたのだ、こうして幸せに囲まれている彼女を見て一番喜んでいるのは郁さんかもしれない。

「女性は強いですね」

「まぁね。女は強いものよ。強くなくっちゃ生きていけないもの」

 微笑む表情に、俺はこの人には多分勝てないだろうなと思う。多分、ではなく、絶対かもしれない。

「女はね、愛嬌と言うでしょう?」

「そうですね」

「で、男は度胸」

「はい」

「何でそう言われているか知っている?」

 考えたことなかったけど・・・

「その方が、世渡りが上手く行くから?」

 その答えを聞いて、あ~と微妙な表情。

「実は反対なの。女は男より強いから、にこやかで可愛げがなくてはいけないのよ」

 男は弱いから度胸を付けなくちゃいけないって?

「肯定は出来ないけど、否定も出来ないでしょ?」

「確かに」

「だから女は愛嬌を持たなきゃいけないの」

 ふふふ、と微笑む郁さんに、やっぱり勝てないなと思う。断じておっぱいにやられたわけじゃないけど。

「それじゃぁオネェは?」

「どっちも持ってんだから最強でしょ?」

 確かに。

 

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