エピローグ

「レディースアンドジェントルメーン! お次はこのグループ! みなさんお待ちかねの、今人気絶頂中の『六キング』だ! どうぞ!」

 アイドル衣装をバッチリ決めた六王が作り笑顔で、大勢の歓声と拍手の中、舞台袖からステージに出た。

 アスタロトは腕を組みながら舞台袖で見ていた。

 後ろから見知った二柱組に話しかけられる。

「六キングは好調。あなた結構プロデュース業頑張ってるみたいね」

「あらー。『怠惰』のアスタロトらしくないじゃない」

 アスタロトは声のした方向を向いて、目を吊り上げた。

「うっさいわね! もう! 面倒くさいんだから、こんな仕事。あーあ、アッピンの赤い本さえあればなー、あんたたちに押しつけられたのになー」

「もうとっくに返したわよ」

 ルシファーは事も無げに返答した。

「はあ!? 返したの? あんな凄い便利な本を?」

「そうよー。最強のわたしたちには必要のないものだものー」

 ベルゼブブも平然とした様子で答える。

「嫌味なやつらね……」

 アスタロトはうんざりした。

「そういえば、噂の彼とはどうなったのよあなた」

二人は誰にも言っていないはずのアスタロトの秘密を尋ねてきた。

 アスタロトは顔面蒼白になって震える声で尋ねた。

「……なんであんたたちがそれ知ってんのよ」

 ルシファーは含みのある笑みを見せた。

「わたしたちがあそこの本を取っただけで済ませるような悪魔だと思ってるの? 随分見くびられたものね」

 続けるようにしてベルゼブブが言った。

「あのとき、布団の中に日記があったでしょ?」

「え? うん、あったけど……」

「あれを置いたのはわたしたちよ。近くの本棚にカモフラージュして置いてあったけど、わざわざ引っ張り出してあそこに置いたの」

 アスタロトは行動の意味がわからないという様子だ。

「な、なんでそんなことを……」

 ベルゼブブが頬に手を当てて言った。

「最近あなた人間界に入り浸りだったじゃない? だから、もしかしてバアルちゃんとか他の悪魔も結構そうなんだけど、いい男性でも見つけたのかなーって推測して、そのヒントをあそこで呟いてくれないかなーって思って、わざと置いて、近くに盗聴器をしかけたの。そこまで出来て、一流の悪魔。そう思わないー?」

 アスタロトは顔を赤くした。

「あのねえ……あんたたちって……本当に悪魔ね」

「それはそうよ。今までなんだと思ってたの?」

ルシファーは自身の発言が面白かったのか、横を向いてフッと笑った。

「で、どうだったのー?」

「どうって……付き合ったわよ。悪い?」

 アスタロトはそっぽを向き、柄にもなく耳を赤くして恥ずかしがりながら答えた。

 ルシファーは無表情で囃し立てた。

「ひゅーひゅー」

 ベルゼブブは微笑ましいといった様子を見せた。

「あらあらー。で、結ばれたの?」

 アスタロトはため息をついた。

「結ばれたわよ。悪い? それもたくさん。毎日のように。何? 羨ましいの?」

 ルシファーは即座に顔の前で手を振って否定した。

「いや別に……」

「即座に否定しないでよ。はーあ。もう能動的に動くのはたくさん。あたしは『怠惰』らしく、ダラダラと生きることにしたわ。改めてそう思ったわよ」

 ベルゼブブが下世話なことを聞いた。

「へー。じゃあ彼氏とのえっちもマグロってわけね」

 アスタロトは叫んだ。

「うっさい! ばかっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋するアスタロトと赤い本 @nekogamikennsinn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ