第2話

静か。教室はまるで全員人形のジオラマなんじゃないかっていうくらいに会話がなかった。高専はいろんな場所から学生たちが入学してくるから同じクラスに中学時代のクラスメイトがいないなんて事はありふれてる。見ず知らずの人たちに囲まれてみんな緊張してしまうのは仕方ない。座席は名前順に並べられていて、私は廊下側、一番右端の列の前から2番目の席だから教室の全容を見る事はできないけど、この雰囲気には身に覚えがあった。だって1年前にも同じ経験をしているんだから。だから私は知っているはずなんだ。この雰囲気から抜け出す方法を…思い出さなくちゃ…。

「浮田ぁ。構って。」

話しかけられた。あまりにも予想していなかった事態に反応が遅れてしまう。けどこれはチャンスなんだ。新しいクラスメイト達と打ち解けるキッカケに…なんて思ったのも束の間で…。私は声の主に身に覚えがあった。だって去年も一緒の教室にいたのだから。

「なんだ中下かぁ………。」

中下は私と同じ留年生だった。なんで留年したかなんて聞かなくても、私と同じで課題を出さなかったのが大きな要因なんだと想像するのは容易いくらいには自堕落的な1年間を送っている男だった。

「なんだよ。ガチガチになってたから話しかけてやったのに。そんなに緊張しててもお前だけ浮いてるから安心しなよ。」

「え?」

「制服見てみろよ。」

自分の姿を確認してみる。次に周りの新入生達の姿を。明らかに私の制服は年季が入ってた。周りが新品の制服で一番上までシャツのボタンをつけてる中、シワがあって少しよれた制服で私だけシャツのボタンが大胆に開いてた。

「見るからに俺らだけ留年生だな!」

中下が笑顔でそう言った途端、周りがギョッとした目で見てきた。心の距離感がただの他人からもう1つ下のランクに下がったのを感じた。

「梨加ーーー!!!遊びにきたよーーー!」

また聞き覚えのある声の主が教室に入ってきた。小由里は私の友達で去年まで同じクラスだった娘で、遊園地もカラオケもいつも小由里と一緒だった。でも、この時だけは来て欲しくなった。1年間で高専に慣れて自由な校風を満喫している小由里は茶色に染まった髪で右耳にはピアスをはめてて、スカートはミニスカート同然の状態で、入学したての黒い髪と膝下まである長いスカートの女の子達とは別の生き物のようだった。

「梨加どうしたー?元気ないぞー!」

「う、うん。そうだね………。」

恐る恐る振り返ると、新しいクラスメイト達全員から視線を向けられていて、心の距離感は他人から1つどころか2つも3つも下のランクに下がっているのが伝わってきた。

ここで私は確信した。恋愛なんてできる状態じゃないことを。私はもう去年のクラスの住人じゃなくて、このクラスの住人にならなくちゃいけないこと。一刻も早くこのクラスに溶け込むことが先決なんだと。

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