第249話 春の予定の定番です

 さて。

 保養所に帰ると別の話が待っている。

 薊野魔法工業株式会社、春の社員旅行だ。


 今回は6泊7日。

 3月5日土曜日から3月11日金曜日。

 場所は沖縄の那覇だそうだ。


「今年も同じマンションにずっと泊まる予定。何をしてもいいよ。観光してもいいし市場を廻ってもいいし。国際通りからも牧志の公設市場からもほど近い場所だよ」

 という事で番頭の修先輩から案内の1枚紙が渡される。

 モノレール駅からはちょっと遠いけれど、それでも500メートル程度。

 思い切り那覇の街中だ。


 なお今回はちゃんと行き帰りは飛行機を使うようだ。

 現地でも基本的にモノレールとかバスを使うらしい。


「去年はどうだったんですか」

「去年は車を3台借りて、1日は美ら海水族館に行って、1日はおきなわワールド行って、1日はアメリカンビレッジ行った。首里城はバスで行ったかな。あとは国際通りや市場をふらふらしていた。それだけでも楽しかったな。

 朗人がいるから今年はきっともっと楽しいよな。市場で美味しそうなのがあったら買って帰れるし」


 あ、微妙に嫌な予感が。

 沙知先輩が反応した。

「朗人君は那覇へ行ったことはあるかしら」


「いえ、沖縄は初めてです」

 沙知先輩、明らかににやりと笑った。

 そして女性更衣室の方へ行き、しばらくして戻ってくる。


「要はこういう事を愛希先輩は期待しているんだと思うわよ」

 開いた雑誌には市場の写真。

 牧志公設市場と書いてある。

 そこに見えるのは色とりどりの新鮮そうな魚。

 しかもかなり大きいのもあったりする。


「魚だけじゃないですわ」

 ページをめくると豚の頭。

 こうなるとどう料理すべきか想像つかない。

 まあ最悪焼いて毛を抜いて煮れば何とかなるだろうけれど。


「あまり無理難題は持ち込まないで下さい。お願いします」

 あらかじめそう言っておかないと何を持ち込まれるかわかったものじゃない。


「でも期待しているのですよ」

 あ、一番やばい方に言われてしまった。

 何だろう。

 楽しい旅行なのに既に不安が。

 そうだ。

 念の為に聞いておこう。


「奈津希先輩は今回は参加なんですか」

「3月末に店をオープンするからやめておくって」

 残念。

 プロの料理人がいれば僕に廻る負担も少ないだろうと思ったのだけれども。

 修行したのはパンとお菓子らしいけれど、実際には何でも作れるらしいしさ。


「今年は車を借りるのかしら」

「この人数だから一斉に移動は無理かな。バラバラで夜だけ集合のつもりで。お持ち帰り禁止、お持ち帰られは必ず誰かに連絡入れる事という程度で」

 番頭による無責任な方針が示された。

 まあ北海道の時も似たような事を言っていたような気もするけれど。


 さて、沖縄か。

 観光するにもあまり知らないんだよな。

 ある程度事前に下調べをしておくか。


 ただ部屋のパソコンはカラオケ用まで含め、誰かに使われている。

 見ると沖縄情報ばかり。

 皆考えることは同じらしい。

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