第242話 特区唯一の神社参拝

 本土の有名神社みたいな大きい神社を想像してはいけない。

 ここの磐船神社は本来は単なる飛行場神社。

 でも有志の皆さんにより年々立派になっているらしい。


 本殿は山頂直下の岩の隙間にはまり込んだ御神輿のような建物。

 遊歩道から見えるけれど立ち入り禁止なのでそれ以上近づく事は出来ない。


 遊歩道に設置された説明看板によると、

「飛行場ほぼ全域を見渡す場所に大阪府所在の磐船神社と似た岩があるのを飛行場準備室長が発見,本殿をこの場所に置くことを提案した」

という事らしい。


「磐船神社って、あの洞窟みたいな岩の間を入るところだっけ」

「確かそれだわ。私は行った事が無いけれど。天の磐船とされる岩そのものが御神体だったと思う」

 隣県奈良の学校出身の3年生2人がそんな事を話している。


 ここからちょっと階段を下りて鳥居をくぐると拝殿。

 特区で神社というと普通はこっちの方だ。

 大きさは物置小屋位だけれどいかにも神社ですという感じの社が建っている。

 本殿のある岩を正面から見る向きだ。


 敷地全体は飛行場に面したせいぜい50坪程度の広さの場所。

 その中に拝殿、狛犬、石灯籠、鳥居。

 社務所っぽい様式の薄くて小さい建物もある。


 取り敢えず皆で参拝。

 そして

「折角ここに来たんだからおみくじ引こうぜ」

と言って愛希先輩は財布を取り出す。


 社務所っぽい建物には御守りとおみくじと絵馬の自動販売機が入っている。

 どれも正規の神社によるものではない。

 機械も中身も有志の皆さんによる手製だ。

 そんなので御利益あるのかと思うのだがなかなか評判はいい。

 それなりに当たるし御利益も確かにあるとの事。

 まあ学校や掲示板等で聞く限りは、だけれども。


 説明書きによれば、この収益は自販機維持の他に神社整備に使われるそうだ。

 飛行場が管理しているのは土地と本殿と拝殿と鳥居だけ。

 それ以外のもの、狛犬とか灯籠とか案内板とか自販機とかは全て有志の設置。


 愛希先輩は自販機内の収納庫から六角柱型の抽選箱を取り出して振る。

「よし、18番!」

 そう言って箱を戻し、自販機に20円入れてボタンを押す。

 自販機の下からジージー音がして細長い紙がゆっくり印字されて出てきた。

 これはサーマルプリンタだな。


 魔技大か魔技高専、または企業の技術者あたりが余った資材等で作ったんだろう。

 おみくじ20円の他にも絵馬100円、布製の巾着型御守り200円と格安だ。

 これって手間賃にもならないよな。

 一種の遊びというか趣味の活動の一環だからいいのだろう、きっと。


「中吉か。でも内容的にはいい事書いてあるな」

「恋愛運好調、勉学は油断しなければ大丈夫、健康は食べ過ぎに注意って」

 理奈先輩が背後から内容を読み上げる。


「拙者も挑戦!」

 典明もおみくじの自販機へ。

「まずここの抽選箱で番号を出してと……」

 例の六角柱型箱を振って番号の書いてある棒を出す。

「次に自販機に20円入れて、今でた2番を押して、言語選択で日本語選択と」

 ボタンは日本語の他、英語、フランス語、中国語、スペイン語、ドイツ語。

 なかなか選択肢が多い。

 確かにその場で印刷なら内容を覚えさせておけばいいから可能だよな。


 下から印刷された紙が出てくる。

 よく見るとこの紙、レジスター等で使う感熱ロール紙だ。

 これなら一度取り替えれば長く使える。

 インクやトナーを別に補充する必要も無い。

 一般的な消耗品だから入手も簡単だ。

 こうやってメンテナンスコストを削減している訳か。


 ボタンも汎用の防水のを使っているし、手作りの香りがぷんぷんする。

 パネルに板材やカッティングシートを貼ってそれっぽく作ってはいるけれど。

 技術的には僕でも頑張れば作れそうな感じだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る