第241話 面倒見よくもえげつない方々
「実際まだ1年だし、5年終わっても魔技大がある訳だしさ。
実際、僕や詩織のようにやりたい事があった奴なんてむしろ例外だろ。医療関係はそんな例外も多いけどさ。風遊美もそうだし。
修だって工作は好きだけれど魔道具やっているのは成り行きだしさ。香緒里ちゃんなんて研究室を決めたのは4年でアンケートとる寸前だと聞いたな。
むしろ今まだ方向が決まっていないなんて贅沢で楽しいじゃ無いか。まだまだ色々見て回るチャンスがあるって事だし。
迷うのだって悪くない。
僕だって2年も回り道している。高専を選ばないで高校卒で海外留学行けば2年少なくて済んだ訳だ。あと美南な、先に進むためにあえて今まで関わりなかった魔法工学科の門をたたいたんだしさ。2年続いて首席があらぬ方向へ行くなんて攻撃魔法科に大変申し訳ないけれど」
そう言えば美南先輩はそうだった。
今も魔技大で、学科は攻撃魔法科で研究室は魔法工学科という状態を成績と研究成果で認めさせているらしい。
前に修先輩にそう聞いた覚えがある。
「それに色々迷いながら進むには、今の朗人の状態はなかなか美味しいポジションだと思うぞ。魔法工学科が一番勉強きつい分他にも進みやすい。しかも魔力も魔法の実力もそこそこついてきた。これなら今後一気に工作魔法の世界が広がるだろう。
まあ魔法の実力は先輩一同が色々暗躍しているようだけれどさ」
「わかるんですか」
「僕の本来の魔法である予知魔法は風遊美や詩織のとは性質が違うんだ。現状認識に近い感じでさ。今までの情報を元にした最適値を出すって魔法なんで、当然おまけに現状認識能力がついてくる。
という訳でソフィー、朗人の魔力を上げるために随分とややこしい手を使ったな」
え、ソフィー先輩が?
すぐには思い当たらない。
でもソフィー先輩は微笑む。
「魔法を使うにも最低限必要な魔力というものがありますからね。典明君も青葉ちゃんも問題無いので、あとは朗人君だけでしたわ。それに留学生の後輩の為にもなりましたしね」
その言葉で理解した。
学園祭で僕に焼き飯とかパエリヤを大量に作らせたのはそっちが理由だった訳か。
僕は今まで全くその事に気づけなかった。
奈津希先輩はにやりと笑う。
「かように面倒見よくもえげつない先輩がごろごろしている訳だ。まあだから焦ることはない。回り道を恐れる事も無い。回り道に見えてもそれが必要な事だったって場合も多いしさ。僕の魔技高専の2年分と同じで。
という感じでいいか、愛希ちゃん」
えっ。
振り返るとちょっと顔をしかめた愛希先輩。
「最後のバレが無ければ完璧だっただけどな」
「僕が根が正直だからさ、ついつい本音が出てしまう」
理解した。
確かに面倒見よくもえげつない先輩がごろごろしている。
まあその筆頭格の1人が奈津希先輩本人なんだろうけれど。
「さて、お話のところ失礼ですが最後の1本をいただくのですよ」
詩織先輩がそう言って紙袋からパンを持っていく。
あ、しまった。
僕の分の2本目のパン、取り損ねた。
いい感じに美味しいパンだったから、甘いのも確かめてみたかったのだが。
でもまあ、しょうがない。
弱肉強食。早い者勝ち。
これが学生会における食のルールだとルイス先輩に聞いている。
だからこの場は負けを認めよう。
でも次の機会は……
勝てる気がしないな。
まあ店が営業開始したら買いに行けばいいか。
「さて、一通り食べ終わったら神社の方へ行くぞ」
奈津希先輩がそう宣言する。
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