第239話 お手軽ハイキング

 結局お弁当用には奈津希先輩が新規にパンを焼いてくれる事になった。

 そしてこの場の全員が気分転換でお出かけに賛成してしまった。

 つまり奈津希先輩がお弁当を作成次第、皆でお出かけ。


 あと弁当代は詩織先輩が預かっている保養所の食費から出すそうだ。

 奈津希先輩はいいよと言っていたのだがそこは詩織先輩が譲らなかった。

 まあ状況を考えれば詩織先輩が正しいだろう。


 そんな感じでまずは全員で店予定地に行って、パンが焼けるのを待つ。

 店の内装とかはもうかなり出来ている。

 全体が白とパイン材木目の2つで統一された、和風とも洋風とも取れる空間だ。

 既に洋菓子・和菓子用のショーケースとパンや焼き菓子用の棚も設置済み。


 作業場の方もほぼ完成しているように見える。

 シンクや作業台やパン焼き釜やオーブンはもう設置済み。

 冷蔵庫も巨大なのがある。

 全部魔法仕様で、恐らく自作なのだろうけれど。

 なお作業場の方は器具や機械類等、全部ステンレス製だ。


「何時でも開店出来る状態に見えるのです。ところで江田先輩はどうしたのですか」

「厳選材料の買い出しルート作りに全国うろうろしているよ。今日は確か北海道だったかな」

 なるほど。


「大変ですね。新しい店だし他と比べると若いしで」

「一応修業先の店の伝手でルートは出来ているようだけれどね。だからまあ、挨拶回りみたいなものかな。自分で廻って腕を見て貰って納得して貰うんだって言っていたな。さてと」


 例のハード系発酵無しパンを作っているようだ。

「チーズとバターは輸入規制があってさ。向こうで使っていたのをそのまま輸入するのは難しいんだ。まあそこは手に入るもので工夫なんだけどね」

 何やらフィリングなりドライフルーツなりチョコチップなり入れている。

 そしてふっとまた小麦のいい香りが立ちこめた。


 焼き上がったパンは今回は棒状。

 細めで長さは30センチ位。

 奈津希先輩はそれを大きめの紙袋にがさっと詰め込む。


「そんな訳で完成。さて、何処に行く」

「折角だから島の中の普段行かないあたりに歩いて行きませんか」

「なら大山の遊歩道を通って神社でもどうかしら」

「いいですね。入学してすぐのオリエンテーション以来行っていないですし」

「僕もだな。神社が大分良くなったと聞いたしさ」


 大山とは飛行場真横にある山だ。

 登山道というか遊歩道があり、この特区の数少ない憩いの場所となっている。

 ハツネスーパーで安いペットボトルを数本買って出発。


 港の見える丘公園を右折してバス道を空港方面へ。

 右手に団地とその先に広がる海を交互に見ながら歩き、造成中の地区になったちょっと先を左へ。

 ここから遊歩道に入る。

 岩場と草地の間をくねくね抜けながら登っていく。


 列が大分ばらけてきた。

 愛希先輩とか体力派一同は平地と全く同じかそれ以上のペースで上へと消える。

 奈津希先輩もだ。

 さすが元攻撃魔法科。


 僕はゆっくり組。

 なお典明はもっとゆっくり組。

 まあこの辺は土日恒例の早朝ランニングの組み合わせとほぼ同じ。


 10分もしないうちにまわり330度が海の絶景になる。

 ちなみに30度分は象頭山の部分、あっちは保護区域なので入れない。

 だからここが一番島で見晴らしがいい場所だ。


 大山の頂上。

 標高88メートルちょっと。

 開けていて結構広い。

 先客も子供連れ中心に20人位いる。

 他にこの島、遊び場所も無いしな。

 スーパーから所要20分とお手軽に到着。


「それではお弁当タイムなのです!」

「はいはい」

 奈津希先輩が紙袋を横の岩の上に置く。


「本数は1人2本以上ある筈だ。味は5種類。カスタードクリーム、黒胡椒チーズ、ミックスナッツ、チョコチップ、クランベリー。クルミはどれにも入っている」

 説明途中には争奪戦が始っている。

 まあどれもきっと美味しいのだろうけれど。


「そっち何だった。私はクランベリー」

「なら一口下さいな。私のはクリーム」

「だれかミックスナッツいないのですか。チョコチップと一口分けたいのですよ」

 賑やかに食べ始める。


 少し風はあるが寒くは無い。

 何せ南国。

 2月だけれど今の気温は20度近い。

 汗っかきの典明など汗を拭いていたりする状態だ。

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