第238話 試作菓子パン品評会
いつの間にか美雨先輩と典明の組も、詩織先輩と沙知先輩の組も戻ってきた。
異次元的な鼻のきき方というのもあるのだろうか。
「今日のは試作菓子パン色々だよ。美味しくないときと改善意見があるときだけ意見ちょーだい」
コンテナ4つのうち一番下が空で2番目が半分になっている。
OB一同には既に配ってきたらしい。
「でも、これはいただいていいのですか。御代をお支払いした方が。お店の開業資金もありますのに」
ちょっとソフィー先輩が心配。
「大丈夫、ちゃんと修に支払って貰っているから」
「なら遠慮無く行くのですよ」
そう言うなり詩織先輩がだだだだだっとパンをかすめ取ろうとして、ルイス先輩にチョップされる。
「詩織、一応皆で囲んで食べよう。朗人済まないが紅茶頼む」
「ほいほい」
と僕は台所へ。
ルイス先輩は英国人だからか紅茶が好きだ。
なので詩織先輩が何処からか購入してくる紅茶もそれなりに厳選されている。
今日はつい1月前に詩織先輩が買ってきたヌワラエリアとかいう紅茶を選択。
色は紅茶なのだが味はほのかに緑茶っぽい感じ。
あんぱん等にはこれがあうだろう。
そんな感じで昼食会が始まる。
「それにしても理奈先輩、すみませんねうちの愛希先輩が面倒見て貰って」
「あれでも愛希は試験成績、下手すると私より良かったりするのですわ」
「理奈はテストを5分で仕上げて、後はずっと寝ているものな。見直しすらしない」
「あんなものに時間を使うのは無駄ですわ。睡眠時間に充てる方がまだいいかと」
なんてしょうもない事を話しながら食事。
パンはそれなりに数も種類も用意してある。
それにしてもあんパンが何とまあ、いかにもという感じだ。
「ほんのり酒粕のような香り。いかにも日本のあんパンという感じですよね」
「あんパンはこのイメージが強いしさ。だから酒種酵母を使って発酵させている。本当は中央に塩漬けの桜の花を載せたいんだけどさ、値段がちょい上がるんで省略」
「それでいいと思います。それとクリームパンはやっぱりグローブ型なんですね」
「まあ最初はお約束を踏襲しようってね」
どれも凄く美味しい。
例えばあんパンはわりと薄皮であんこは半殺しよりちょい潰れ程度。
持ってみると見た目以上に重くてしっかり詰まっている。
でも食べるとあんの味じゃなくてしっかりあんパンの味。
薄いパンがあんに負けていない。
うん、今まで食べたあんパンの中では一番美味しいかも。
「ところで午後はどうする。そろそろ勉強飽きてきた」
愛希先輩のその言葉に青葉が真っ先に頷く。
本音を言うと僕もそうだ。
あまりぎちぎちにやっても頭に入らないしさ。
「午後は午後として、私はこっちのガチガチ系のパンが好きなのですよ」
詩織先輩がまわりの話題に関係なくカジカジ食べている。
美味しそうなので僕も同じモノを取ってかじる。
お、何だこれ。
凄く風味が豊かで美味しいぞ。
「それはカンパーニュ風に焼いた奴。例のフランスパンと同じでイーストも酵母も使っていないけれど、仕込みにちょっと細工してそれっぽく仕上げている。
まあ最初は昔ながらの製法メインで魔法製法少なめで様子見。売れ行きに応じて割合を変えていく予定かな」
概して魔法製法の方が材料の麦の味が強く出ている。
酵母系のだと麦以外の風味を載せた味を楽しむ感じかな。
「ところで朗人、テスト準備ある程度終わっているか」
愛希先輩が僕に聞いてくる。
「ええ、一応は範囲を網羅してはいますけれど」
「なら午後は出かけないか。これ以上連続して勉強しても頭に入らなそうだしさ」
「まあ、それもいいかもしれませんね」
「よし!」
愛希先輩はそう言って、さささっとパンを幾つかキープする。
「お弁当用にこれはキープ!」
「あ、ずるいのですよ、ならば」
詩織先輩も……
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