第237話 バレンタインデー中止のお知らせ

 まず最初に。

 毎年恒例の『チョコレートを作って食べまくる会』は中止になった。


 理由は簡単。

 本年度の期末テストの日程のせいである。

 テスト期間は2月14日月曜日から2月18日金曜日まで。


 修先輩とか詩織先輩とか沙知先輩、典明あたりは、

「別に期末テストでも関係ないだろ。テスト期間中は学校に放課後残れない分早く始められるし」

という意見だった。


 でも他の全員の

「そんな意見は普通の人はとても言えません!」

という意見に押された。

 まあ当然である。


 何せ前期だけでうちのクラスは2人、消えている。

 必須科目でそれそれ落第してしまったのだ。

 落第すれば来年も同じ学年でやり直すか、でなければ学校を去るか。


 2人とも夏休み終了時には既に学校を去っていた。

 高専はとにかく成績に厳しい。

 気を抜くと容赦無く落第してしまう。


 ちなみに魔法工学科だけでなく、補助魔法科も攻撃魔法科もバリバリの理系。

 数学は容赦無く微分積分やらされるし確率統計も必須。

 理科も理科Ⅰ以外に2科目必須だ。


 ただ学生会は成績優秀な先輩が揃っている。

 わからないところも誰かしら教えてくれる。

 そんな訳で2月12日土曜日。

 保養所はどこぞの自習塾みたいな状況になっていた。


 まあそれでも期末テストの成績など気にしなくても大丈夫な連中はいる訳で。

 例えば美雨先輩と典明は島内の何処かへデートに行っている。

 沙知先輩は詩織先輩と東京方面へお買い物中。

 そして他はくそ真面目に午前中はお勉強タイムだ。


 そろそろお昼近い11時20分過ぎ。

「ぐぐぐぐ、うがああーっ!何で攻撃魔法に微分方程式が必要なんだ!」

 愛希先輩が切れかけた。


「それは魔力による魔法の効果の時間的推移や出力調整に必要だからですわ」

「がううっ」

 理奈先輩にあっさりそう応じられ、愛希先輩は何とか正気を取り戻す。


「参考までに、ここを受験したときもそんな感じに2人で勉強していたんですか」

「そう思っていただいていいと思いますわ」

 なるほど。

 理奈先輩、ありがとうございます。


 なお今回の金土日に限り、僕も料理当番から外れた。

 奈津希先輩が作ってくれる事になっている。

 昨日夜御飯も無茶苦茶美味しかった。

 タルティフレットというグラタンとか赤ワイン煮込み。

 留学中に向こうで覚えたメニューだそうだ。

 今朝のパンも無茶苦茶美味しかったし、昼も期待していいんだろうな。


 店の方も既にかなり出来上がっている。

 何せ夫予定者が魔法工学科出身で修先輩の先輩だ。

 その気になれば1日でそれなりに店の内装を作ってしまいそう。

 というかきっと本当に出来るんだろうな。

 魔法仕様の調理器具等も着々と調えている。


 さて。

 僕が最も苦手とする英語の構文と単語を何とか繰り返し終わったところで。

「やっほー、テスト前の諸君、みんな生きてるかい」

 奈津希先輩の声がした。

 隣の部屋から連絡廊下を通ってやってくる。

 いつもとちょっと違うパンの香りがした。


「あれ、今日はちょっと違う香りですね」

「ふっふっふっ、よくぞ気づいたね明智君、今日のパンはこれだ!」

 店用に作ったらしいプラスチックコンテナを斜めにしてこっちに中身を見せる。


「ジャパニーズスペシャルティ!酒種あんぱんとクリームパン、あと試作菓子パン色々だ!」

「だーっ!」

 青葉が壊れた。

 そうして怒濤の如く昼ご飯になだれ込む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る