第236話 朝の香り
翌朝。
7時に起きて歯を磨いたりしてキッチンへ行くと。
既にだれかが何かやっていた。
奈津希先輩だ。
何かこねている様子。
「おはようございます」
「おはよう。昨日は料理ありがとう。美味しかった」
うん、小麦粉をこねている様子だな。
「今作っているのはパンですか」
「ああ。折角だから朝御飯に御馳走しようと思ってね。小麦粉も用意してきた」
確かに安物の薄力粉とは香りが一段違う。
でもパンと言えば。
「パンって、発酵時間とかは大丈夫なんですか」
奈津希先輩は微笑む。
「まあね。何なら見てみるかい」
というので見学させてもらう。
奈津希先輩はこねながら何か魔法をかけている様子。
「これは、ひょっとして風魔法系統でパン種に空気を入れているんですか」
「正解。ごく微少な泡を入れているんだ」
よく見ると同じようなパン種は他に1,2,3,4……15個もある。
「ここの連中は昔からよく食べるからさ。念の為に多めに用意した。捏ねる時間は1個1分程度あれば充分。魔法で状態を確認しながらだけどね。中に含んだ空気の量はまあパン種のみの大きさの2倍程度になるようにってところだな。
こうすればイースト発酵させる必要無いから時間短縮できるだろ」
なるほどな。
奈津希先輩は今捏ねたパン種を置いて、そして先に置いてあったパン種を取る。
「あとは整形して焼くだけ。ガチガチ系かふんわり系かは生地と空気のどっちにどれだけ熱を先に通すかで調整。まあ整形は典型的なバタールでこんな感じだね」
慣れた手つきでささっとパンを長細く成形する。
「もともとイースト菌とか酵母って、パンの小麦の香りを中心に考えると余分な要素だと思っていたんだ。でも膨らませる関係上、どうしても使う必要がある。
まあ酵母の種類によっては独特の風味なり香りなり出たりするしさ。だから一概に悪いとは言えないけれどね。
でもこうやって魔法で気泡をいれてやれば発酵の必要も無い。そうして焼いてやれば、だ」
おお、って思う。
ぞぞぞぞっと大きくなり茶色くなり、パンになった。
いわゆる日本でいうところの、少し太めのフランスパンだ。
焼いた小麦粉のいい香りがする。
「この香りを生み出すのに色々模索したな。
で、自分では結構な自信作だったんだけれど、他の人がどう見るかはわからない。
それで一般の人がどう思うか試すため、修行させて貰っていたお店に限定で置いて貰ったんだ。店の方には事情も作り方も全部話して。
そうしたら何か思った以上に評判になっちゃってさ。
向こうはまだ宗教的に魔法を嫌っている人が少なからずいる。
店の連中はそうでもなかったんだけれどね。
だからこれ以上評判になって問題になる前に撤収して日本に逃げてきた。そんな訳で日本に戻るのがちょっと早くなったんだけどさ。まあヒデアキの日程とちょうど一緒になって結果オーライってところかな」
そう説明しつつ、次々にパンを焼いていく。
何というか胃に訴えかけるいい香りが広がる。
「あ、出来れば昨日のマグロの赤身でシーチキンとかお願いしていいかな。他にもパンにあいそうな副菜とかフィリング。パンはバタールと角食パンの2種類作る。ここは日本だしね」
よし、なら僕も料理にかかるか。
大広間で寝ていた各々が今の香りで起き出してきたし。
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