第234話 さすが最強魔法使い

 今日は3年生以上が中央方面に固まっている。

 なのでテーブルのこの辺は1年生2年生が主だ。

 向こう側は上級生一同が温かく見守っている感じ。

 奈津希先輩、後輩に慕われていたんだな。


 さて、今日も料理の味は問題無い。

 分量はいつも以上。

 バトルもいつも以上。

 しかもデザートまで別についている。


 間違いなくトドは今日も発生するな。

 まあ明日は学校だけれど、最悪7時頃に起こせば問題は無い。

 何なら今日は泊まって明日の朝食位は作ってもいいか。

 どうせ愛希先輩も典明もトドだろうし。

 そんな事を考えていると。


「朗人、寿司飯おかわりなのです」

 手巻き寿司用の御飯が足りなくなったようだ。


「あ、何なら僕がやろうか?」

 立ち上がりかけた奈津希先輩を詩織先輩が制止。


「ついに瞬間炊飯魔法が開発されたのですよ。これで3分待つ必要すら無いのです」

 等と解説が聞こえる中、僕は立ち上がりキッチンへ。


 予備のお櫃を取り出して米を入れる。

 軽く米を洗って適量の水を入れて。

 置いた直後に炊飯魔法を発動。

 最近は慣れすぎたせいか魔法杖すら必要無い。


 後は寿司酢。

 米酢味醂砂糖塩と混ぜて温度上げて溶かし込めば完成。

 炊いた御飯に振りかける。

 後は魔法でかき混ぜるだけ。


「凄いな、本当に瞬間炊飯なんだ」

 キッチンの向こう側から奈津希先輩がのぞき込んでいた。

「色々研究したけれど僕は3分の壁を破れなかったな。どうやっているんだい」

 人なつっこくて馴染みやすい感じだ。


「米のデンプン内のアミロースやアミロペクチンの結合を熱で一気に崩して、水分子を入れ込んでやるんです。水分子の入れ込み具合を調節しながら、余分な水分を加熱して飛ばしていけば、結果的に瞬間的に炊飯できているように見えます。

 最後にちょっと部分的にムラになるように高熱かけて、釜で炊いたときのように非均質化すれば完成です」


「うわっ、手の込んだ工作魔法だなそれ」

「残念ながら普通の工作魔法は苦手なんですけれどね」

 そう言いながらお櫃を持って大広間へ。

 詩織先輩前の空のお櫃と交換する。


「朗人君ごめんなさい、こっちもまもなく」

「こっちもですわ」

 残り2つのお櫃も空が近そうだ。


 とりあえず2つを回収したところで1つを奈津希先輩に取られた。

「ごめん、僕にも今のを試させてくれ。これでも料理魔法は色々向こうでも練習したんだ」

「なら済みません、お願いします」

 という事で米を入れて渡す。

 1個分多いけれど、どうせまた足りなくなるだろうし。


「これは無洗米かい」

「ええ、時間短縮のため」

「ならこれでいいか」

 奈津希先輩は米を軽く洗って水を入れる。

 僕も残り2つのお櫃を同じ状態へ。


 そして僕は瞬間炊飯をして、そして寿司酢をお櫃3つ分作成。

 奈津希先輩はどうやら色々魔法を試しているようだ。

 そして僕がお櫃2つに寿司酢をかけてかき混ぜた頃だから30秒程度だろうか。


「出来た。なるほど高熱を一気にかけて酸素分子の前に水を入れ込めばいいのか」

 見事に炊飯されていた。


「さすがですね」

 正直なところこんなにあっさり出来るとは思わなかった。

「さっき一応やり方を見たしね。でも温度の具合は実は12パターン試した。水分子の入れ込みを圧力でやったら米粒が圧力で中から崩れるしね。

 5パーセント位は失敗したかな。何気に混ぜ込んで誤魔化したけれど」

「それ位の味のムラはあった方が美味しく食べられるんで大丈夫ですよ」


 この炊飯魔法、真似できる人は今までいなかったんだけれどな。

 見ただけで成功させるとはさすがというかなかなかだ。

 確かに最強の魔法使いなのかもしれない。

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