第230話 トドとタオルと宴会と

 トドが浮いている露天風呂の横。

 竹垣があるので露天風呂は見えないけれど。

 駐機場で干物を収穫。

 収穫という単語の使い方を間違っているとは思う。

 でも正に網の上から収穫という感じ。


 網の汚れはお馴染み『燃やして洗浄』魔法で綺麗に。

 そして網を駐機場の隅へと片付ける。

 即席で作った割にこの干し網、割といい出来だ。

 斜めに自立するし折りたためるしステンレスだからくっつきにくくて錆びないし。


 さすがロビー先輩。

 金属物や大物の工作魔法は一流だ。

 これは僕ではまだ真似できない。


 そんな感じでトロ箱2個に収穫物を乗っけてキッチンへ。

 トロ箱ごと大型冷蔵庫にしまい込む。

 その際に2匹ほどトロ箱から出して皿に載せる。

 出来の確認だ。


 遠赤外線系焼き物魔法で皮はぱりっと、中はしっとりこんがりと焼いて試食。

 うん、悪くない。

 ちょっと塩が薄い気もするけれど。

 美味しいアジの干物とほぼ同等という感じ。


 味醂干しもなかなかいい感じ。

 あんな砂糖醤油ドロドロな汁で大丈夫かと思ったけれど正解だったな。

 正直御飯が欲しい出来だ。


 材料や作り方はネットで知ったそのまま。

 元は後継者不在で廃業した南房総の干物屋の息子公開のレシピだ。

 なので不味い出来とは思わなかったけれど、予想以上にいい仕上がり。


 よし、と思った時、背後に気配を感じだ。

 今の干物を焼いた臭いがどうやら露天風呂まで行ってしまったらしい。

 餌付けされたトドが皿と箸まで用意して待っている。。

 もちろん1匹では無い。

 集団だ。


 というかタオル巻き付けでここまで来るな。

 せめて浴衣くらいは着てくれ。

 言っても意味ないんだろうけれど。

 色っぽいと言うより何というか……まあいい。


「我々にも味見の権利があるのです」

「その魚を捕ったのは私だしさ」

「ちゃんとした干物を食べるのはここでは始めてですしね」

 うんうん、しょうがない。

 皿を並べ2種類の干物を並べ、遠赤外線系焼き物魔法をかける。


「そのままでもいいですが何なら醤油を1滴程度垂らしてもいいと思います」

 試食中の姿を見てはいけない。

 色々異常かつ危険すぎる。

 こら愛希先輩タオル巻いて座った姿で足崩すな。

 色々まずいぞその格好。


「朗人、ごはんよこせなのです」

 やっぱりきたかその要望。

 しょうがないので茶碗を人数分用意し中に米と水をセット。

 炊飯魔法で茶碗1杯分の御飯にする。


「試食だからおかわり厳禁ですからね」

 量的には充分在庫はある。

 でもトドは歯止めがきかないからトドなのである。

 だから一応釘を刺しておく。

 詩織先輩と愛希先輩からブーイングが聞こえるが無視!


「この味、御飯にもいいれすがラーメンの出汁にもなりそうれす」

 ジェニー先輩、タオルがほどけかけていて危険だ。

 胸のボリュームにタオルが間に合っていない。


「うーん、これならさらっとした大吟醸が合うかもしれないです」

 風遊美先輩、最近羽目外しすぎ!

 あとあなたはワインとか洋酒専門じゃなかったのですか!

 朱里先輩、風遊美先輩がそう言うからと隣から日本酒持ち込まないで下さい!


 なお、全員タオルを巻いただけの姿である。

 うん、もういいや。

 諦めて僕は露天風呂に逃げよう。


 ◇◇◇


 僕が露天風呂から戻ってみると宴会が始まっていた。

 トドの宴会なので寝たままが半数である。


 一応半数は浴衣に着替えたらしい。

 動けないトドはタオルそのままだけれども。

 おかげで不用意にまわりを見ることも出来ない。

 ルイス先輩は諦めて別室に逃げた。

 典明は美雨先輩がいるので残っているけれど。


 干物は僕以外の誰かの手で冷蔵庫から皿に出され、焼かれている。

 誰かが炊飯器をセットしてもうすぐ炊ける状態。

 更にチーズやパンや生ハムまで再登場。

 寝て食べながらゲームやカラオケまでやっている始末だ。


 この惨状は薊野姉妹及び修先輩が午後便の飛行機で到着するまで続いた。

 3人は玄関を開けるなりこの惨状を見て絶句。


 結果、ルイス先輩を除く全員が由香里先輩と香緒里先輩に怒られた後。


 トドは何とか浴衣に着替え。

 更に刺身盛りとかも加えて。

 そして再び宴会は続くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る