第227話 生ハム様の御部屋

 詩織先輩は2時間半にわたる昼食の後、何処へと姿を消した。

 風遊美先輩は赤ワイン2本開けた後、保養所の畳の上で伸びている。

 大学魔法医療科緊急医療専攻がこれでいいのだろうか。

 ジェニー先輩愛希先輩理奈先輩はトド化しお昼寝中。

 沙知先輩は広報部の部屋で何やら作業中。


 そんな訳で。

 僕は露天風呂作業を1人でやっていた。


 風呂の筐体の移動とか大型増設部分は午前中に終了している。

 だから残りは細かい備品とか仕上げ作業のみ。

 今日の夜には何人か帰ってくる予定だ。

 だからその時に露天風呂が使えるように仕上げたい。

 まあコンクリ硬化時間とかは魔法で短縮できるし何とかなるだろう。


 トドの寝心地が良さそうな檜張りのクールミストデッキ。

 天然石貼り遠赤外線効果満点な新寝湯ホットミスト付き。

 そんな設備を一通り完成させる。


 部屋に戻ると何やら引っ越しというか部分的な移転作業がはじまっていた。

「何の移動ですか?」

「ウォークインクローゼットの片方を開けて、生ハム様の部屋を作るのですよ」

 いつの間にか帰って来た詩織先輩がそんな事を言う。

 酔っ払い風遊美先輩以外は作業従事中のようだ。


 生ハム様の部屋?

 何だそれ?

 それでもまあ僕も手伝いに入る。

 主な作業内容は布団と浴衣の移動。

 これらを片方のウォークインクローゼット内に押し込める。

 ウォークインクローゼットの広さは3畳程あるので、何とか収まる。

 その間に詩織先輩が何やら作成中。


 中の埃を愛希先輩が全て焼却して空気を通した後。

 詩織先輩が何かの装置をクローゼットの天井近くに取り付けた。

「湿度と温度調整用なのです。これで何も無ければ温度18度、湿度50パーセント以下になるのです」


 そして今作ったらしい棚をセットし、上に台に乗せた生ハム2個を置く。

 えっ、2個?

 見ると片方はまだ食べていない状態だ。

 包装等は無く既に台に固定されている。


「なかなかいい物なので、ちょっと原産国に行って追加購入したのですよ。何とか英語で通じたのです。これで好きな時に好きなように生ハムを食べられるのです」

 おいおい追加購入かよ。

 ここは浴衣収納兼典明の寝部屋だったのだが、もうそう使う事は無理だろう。

 更に詩織先輩は棚に長いカゴを置き、バケットを5本ほど入れる。

 おまけにチーズの塊も3種類。


「ここは室温も湿度もちょうど整っているはずなので、追加でこんな物も置いておくのです。これでもう極上のハムチーズサンドがいつでも食べ放題なのです」

 喰意地部屋、完成だ。


「なら買い占めた乾麺等もここに置いていいれすか」

 出たなスパモン教徒。

「勿論なのです。食の充実は大歓迎なのです」


 あ、それなら香辛料とかも置いてもいいかもな。

 乾燥バジルとかあると便利だし。


「ワインのボトルも置いておけますね」

 酔っ払いが復活した。

 というか風遊美先輩、酔っ払い時と普段の落差が激しいんだよな。

 普段は怜悧って感じなのに酔っ払うと甘々な雰囲気になる。

 ちなみに今はまだ酔っ払いモード。


「さて、私はこれから頑張ってハム削り職人をやるのです。朗人はわかっていると思うのですが、合う食材を作るのです」

「生ハムスパゲティ希望なのれす」

 また出たなスパモン教徒。

 でも美味しそうだから要望に応えよう。


 そんなこんなで20分後。

 第2回生ハム宴会が開催されてしまう。


 更に2時間後。

 遠くカナダから帰って来たソフィー先輩は自然に宴会に参加。

 いつの間にか帰っていたロビー先輩が旅行中に残ったおにぎりでおにぎり生ハム巻きを開発、直ちに詩織先輩から僕に量産命令が下る。

 イギリスから帰ってきたルイス先輩は部屋内でのたうち回りながら生ハム賞味中のトドに絶句し寮へ帰ろうとするも、詩織先輩に捕まり無理矢理宴会へと参加。


 更に1時間後には増設した寝湯が大繁盛。

 休み気分満々な日が続く。

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