第222話 愛希先輩の方向性……

「デュオコーンを再設計して大魔力対応にしたんだね」

 あっさり修先輩が見破る。


「その通りです。まあ理論的にはあの論文通りです」

「機構的には問題は無いよ。バイパス回路もちゃんと大魔力対応になっているし。立ち上がりの時点でモノセロス回路のみと切り替えるのも確かに有効だ。というか、ここまで設計が違うともう別の杖だな」


 一方、愛希先輩は目をつむり杖を握る方式で構えた。

「うん見える。今なら渋谷も梅田も行ける。新宿伊勢丹の地下も……捕らえた!行ける!」


「愛希早まらない!まだプレゼント交換の最中!」

 理奈先輩が慌てて止めた。

 愛希先輩が目を開ける。


「あ、そうだった。ついつい色々美味しそうなスイーツが並んでいたから」

「見えたですか」

 詩織先輩が尋ねる。


「見えた。引き寄せる感覚も捕まえられた。この杖ならきっと問題無く行けそうだ」

「魔力的には充分なのですよ。私がプログレスをフルに使う時と互角の魔力を感じるのです。慣れない魔法でロスがあってもハワイ程度なら余裕の筈なのです」

 おいおい、お墨付きまでついちゃったよ。


 まあ、元々そのつもりで作った杖だ。

 愛希先輩や美南先輩達の『異空間魔法を極めて本土に買い物に行こう』計画。

 これはそれをサポートするつもりで作った大魔力用の杖。

 買い物時に一般人に杖とわからないよう折りたたみ傘に偽装している訳だ。

 さて、そろそろ話を進めるか。


「愛希先輩。それではこの箱、いただいていいですか」

「ああ、そうだった」

 まだ頭が杖の方から離れていないようだ。

 それだけ喜んでくれたのは嬉しいのだけれど。


「このプレゼントだが、悪い、完全に私の衝動買いだ。あの詩織先輩に贈った新巻鮭と同じ。見た瞬間これが頭から離れなくなったんだ」

 何だろう。

 皆さんが注目している中、箱を開ける。

 

 緩衝材、いわゆるプチプチに包まれて大きな固まりが見える。

 ん、何だこれは。

 真空パックされたそれは……巨大な骨付き肉の塊?


「生ハム原木というらしいんだ。豚の脚一個分の生ハムで骨付き。確か7キロ強」

 おいおいおいおい。

 とりあえずこの強烈さを皆と分かち合うため畳の上に載せてみる。

 おおー、とかうわあー、とか声が聞こえる。


 無理も無い。

 僕も全くもってそう思う。

 何せ豚の脚の爪の跡みたいなものまでついている。

 強烈に生々しくて存在感がある肉だ。

 ただその圧倒的な存在感からいち早く抜け出した方がいた。


「朗人、この生ハム、今すぐ食べられるのですか」

 言わずもがな詩織先輩だ。

 でもさすがに生ハムまるごとの扱い方の知識なんて僕には無い。

 どうしようかと思うと中に説明書みたいな物があった。

 とっさに斜め読み。


「えーと、説明によると、箱から出して2晩以上は真空パックのままおいておく。開封してからも1日はそのまま置いておいて、それから切るとなっていますね」


「折角美味しそうなのが目の前にあるのに3日待てというのですか。魔法で何とかならないのですか」

「発酵食品の微生物関係は魔法で時間短縮できませんね。なので3日は待たないと」


「どうしよう朗人、私は28日には奈良の実家に帰らなきゃならないんだ。じゃあ生ハムは来年までお預けか」

「新年になってから皆で試食しましょう」


「私はずっとこの特区にいるのですけれど」

「新巻鮭で我慢して下さい」

 収拾がつかない。

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