第205話 2人きりの保養所

 ハツネスーパーから目的地までも、歩いて100メートルない近さ。

 本当は寮の自室が良かったのだけれども。

 高専の寮は異性の立ち入りは許可していない。

 そしてホテルは祭期間中なので当然満室だ。

 という訳で僕らが向かうのはマンションというか保養所。

 今日は学生会で集まる事は無いので空いている筈だ。


「朗人、面倒ならいいんだぞ、私の事は……」

「そう言えるだけ少し元気になりましたね」

 僕はあくまで強気で押し通す。

 似合わないキャラと言わないでくれ。

 実は僕もいっぱいいっぱい。

 でも必要なら似合わないキャラでも背伸びでも何でもやってやる。


 何とかマンションのエレベーターに乗り込み一安心。

 これで不審な目で見られずにすむ。

 実はここまで結構まわりの視線が怖かった。

 何せ泣いている女の子を強引に引っ張り回している以外の何物でもない。


 保養所の鍵を掌紋ロックで開ける。

 予想通り中は暗い。

 誰もいないようだ。


 照明をつけて中に入る。

 買ってきたものと冷蔵庫の中身を照らし合わせる。

 詩織先輩の買い出し前らしく冷蔵庫の中身はあまり揃っていない。

 でもまあ、必要最小限程度のものとか調味料類はあるけれど。


「朗人、何か手伝おうか」

 時間のおかげで少し気力が回復してきたかな。

「ならこの冷凍豚挽肉、冷凍牛挽肉、冷凍タマネギみじん切りを全部解凍して下さい。タマネギは袋の8分の1程度、挽肉は全部解凍で。解凍したものを合わせてボールに入れておいて下さい」


 今日のメインはハンバーグだ。

 ちなみに主食はパン、それもサンドイッチの予定。

 パンだけは安物だけれどハムとチーズはいいのが冷蔵庫にある。

 卵とツナとレタスは厳選素材ではないけれど勘弁して貰おう。


 愛希先輩が解凍したものをボールに入れる。

 卵とパン粉と牛乳を入れ、岩塩と胡椒、ナツメグをガリガリと入れる。

「愛希先輩はその種をガンガンに混ぜて練って下さい。使い捨て手袋の場所はわかりますね」


「大丈夫」

 声に少し調子が戻ってきた感じ。

 よしよし。


 ◇◇◇


 いつもよりちょっとだけ時間をかけて夕食が完成。

  ○ チーズと目玉焼きのせ巨大ハンバーグ。

  ○ レタスと人参のサラダ。

  ○ ホットサンド3種。

  ○ パン耳のラスク。

  ○ プリン。


 我ながら節操ない組み合わせだ。

 ハツネスーパーの在庫品と冷蔵庫内の在庫、それと愛希先輩の好物。

 それらを考えたらこうなってしまった。

 あとはスープ無しで代わりに白牛乳。


 運ぶのが面倒なのでカウンターに並べて丸椅子の脚を長く調整して。

 2人で横に並ぶ形で座る。

 小さくいただきますを言って夕食開始。


「いつもと違って適当な材料ですけれど、そんなに味は悪くないと思います」

「うん、美味しい」

 いつもよりペースは遅いが一応食べているようだ。


「ちゃんと食べて下さいね。全部食べてお風呂入って寝る準備した後で。

 今夜僕がどれだけ愛希先輩の事が好きか、どんなところが好きか、長々と聞かせてあげますから」

 我ながら気恥ずかしい事を言っている。

 でもこういう時は気合いと勢い。

 後悔だの何だのは後でたっぷりすればいい。


 結局愛希先輩はいつもとほぼ同じ量、トドになる手前程度を無事食べきった。

 2人で食器を魔法洗浄して、そして……

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