第203話 愛希先輩の用件

 よく見ると出口のところに何か魔法がかかっている。

 僕にはわからないがきっと何か仕掛けをしているのだろう。

 案の定、何やら外でどよめきが聞こえる。

 うん、やっぱり何か仕掛けているな。


 一通りお客様らしき集団が出たところで聞いてみる。

「何を仕掛けたんですか、詩織先輩」

「出口を出た瞬間、魔技大本館2階から4階までのランダムな場所に移動するように魔法で飛ばしたのですよ。勿論衝突したり事故らないように注意した上でなのです」

 ちなみにこの大実習室Aは魔技大の魔法工学部別館1階にある。


「それでグループ行動の人の事も考えて待ち合わせになる場所を指定したんですね」

「その通りですわ」

 沙知先輩がやってきた。


「さて、片付けは修先輩と香緒里先輩がいるのでお任せして、これから下で軽く打ち上げをやろうと思いますの。よろしければ料理を持って来ていただいた方もどうですか?この会で余ったお金で遣りますので会費は無しですけれど」


「私は行こうかな。大学の方は魔法工学科の方でしょ。ちょっと大学の方の話も聞いてみたいし」

「ドナが行くなら私も行きます」

「なら僕もそうしようか。三輪はどうする?」


 行こうかな、と思って気づく。

 何か愛希先輩が下を向いて僕のシャツの裾をまた引っ張っている。

 明らかに何か言いたそうだ。


「今日はちょっと用事があるので帰ります。すみません」

「あれ、三輪さんは来られないんですか」

 あ、三田先輩にも聞かれた。


「すみません、ちょっと今日はこの後予定があって」

「そうなんですか。残念ですね」


「それでは魔法を解除したので解散なのですよ。片付け魔法全開で使うので荷物を持って早く出て欲しいのです。学生会は集合無しでこのまま解散なのです」

 向こうから詩織先輩の声が聞こえる。


 ◇◇◇


 校門のところでちょっと待つ。

 予想通り少し遅れて愛希先輩がやってきた。


「今日はちょっと歩きましょうか」

 そう言って僕は歩き出す。

 愛希先輩は無言で横を歩いている。

 ついてきてはくれるようだ。


 校門から左に出て街や港の方へ。

 歩いている人はいつもより多い。

 お祭り期間中なので島外からの客が結構いる。

 宿泊客も島の収容力以上にいる状態。

 ホテルや寮の空き室や公営住宅の空き室だけでない。

 港に大型客船が2隻停泊していたりする。


 学園祭は高専、大学ともに夕方5時過ぎまで。

 でも企業の出店や特区の公社の出店等もそこここに出ている。

 だからこの辺りはまだまだお祭り状態。

 そんな中をゆっくり2人で歩いて行く。


 公園の角までやってきた。

 ここから先は港へと下りていく坂だ。

 愛希先輩は公園に入りたそうな素振りを見せる。

 なので僕も付き合って公園へ。

 公園奥のベンチで愛希先輩が腰を下ろしたので、僕も横に座る。


「ごめん」

 下を向いたまま小さい声で愛希先輩が言った。

「どうしたんですか」

 聞いてみる。


「ごめん、今の私、最低だなって思っている。正直朗人と顔を合わせられない」

 僕はどう応じればいいか戸惑う。

 実は愛希先輩の用件は僕が今日使った魔法杖、デュオコーンの件だと思っていた。

 渡されたのが昨日で昼は僕がすぐ寝に入ったので杖の紹介をしなかった。

 だからこの魔法杖を試してみたいという話だと思ったのだ。


 でも考えてみれば愛希先輩の様子、美南先輩のショーの辺りからおかしかった。

 そして雰囲気がそもそもいつもの愛希先輩と全く違う。

 何か本当に調子が悪そうだ。

 とすると。

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