第201話 今度は浦島太郎です
「えっ、詩織ちゃん本当?」
という事は少なくとも三田先輩は詩織先輩と顔見知りのわけだ。
「何なら試してみるです」
詩織先輩がそう言うとともにテーブル上に空のトロ舟が出現する。
その中に紙ナプキンを丸めて置き、そして詩織先輩は三田先輩に杖を渡した。
杖は例の金属製の最強万能杖、プログレスだ。
「この魔法杖も元はといえばそっちの研究室の成果物なのです。そんな訳で燃やすつもりで杖に意識を集中するです」
「うーん、こうかな」
シュボッ。
あっさりと紙ナプキンは燃え尽きる。
「そんな感じでもう魔法を使える状態なのです。杖については先生なり修先輩なりにたかればいいだけなのです」
おいおい。いいのかそれ。
でも三田先輩達は正規の研究室員だから問題は無いのか。
そして詩織先輩はもう1枚紙ナプキンを丸めて同じようにセット。
「目黒先輩も基本的に同じ系統なのです。そんな訳で一発どんとやってみるです」
目黒先輩もあっさり成功。
そして詩織先輩はトロ舟を何処かへ魔法で仕舞う。
「あれ、私は?」
「春日先輩は少し違う魔法なのですよ」
そう言って詩織先輩は少し考える。
「よし、春日先輩はちょっとの間、目を瞑って欲しいのです」
「ん、わかった」
春日先輩が目を瞑る。
詩織先輩はどこからともなく丼を取り出し、菓子をひとつテーブルの上に置いて丼をかぶせた。
「春日先輩、もう用意できたのです。その杖を構えて、杖越しにこの丼の中を見てみるです」
春日先輩は杖を構える。
「うーん、あ、見えるこれ。マルセイのバターサンド!」
「正解なのです。つまりは検知魔法系統なのです」
そう言って詩織先輩は丼を取り、何処かへとしまう。
「まあ、あんな魔法工学科にあるまじき魔力が乱れ飛ぶような研究室に1年も通えば、それなりの魔力なり耐性なりがつくのです。そんな訳で杖は先生に頼んで修先輩か器用貧乏先輩に作って貰えばいいです」
「器用貧乏先輩……ああ、リビングデッドさんね」
凄いあだ名の先輩がいるようだ。
あ、グレムリンズがあちこちからこのテーブルへとやってくる。
次のプログラムが始まるようだ。
愛希先輩が後ろから丸椅子を持ってくる。
「ここ大丈夫?」
ちょっと狭いので僕の椅子を動かして場所を作る。
「ありがとう」
向こう側も空いているのにな、とふと思う。
舞台から逆になるからだろうか。
「さて、次は攻撃魔法科3年でありながら何故か魔法工学科新地研究室に籍をおく、一部の人にはお馴染み世田谷美南先輩によるトークショーです。
題は『とある浦島太郎』」
美南先輩が前に出てくる。
一礼して舞台中央に置かれた椅子に座る。
「それでは始めます」
照明も何もいじっていないのに、ふと部屋が暗くなった気がした。
「昔々、海沿いのある集落に浦島太郎という男が住んでおりました……」
これは、アレだな。
夏の旅行でやった桃太郎と同じシリーズ。
そう思いつつ僕は話を聞く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます