第195話 学祭中でも研究中
うん、わかった。
詩織先輩が修先輩の事を気づかない人だと言っていたのがよくわかった。
この人自身はきっと天才ではない。
でも積み重ねの連続で並みの天才では追いつけない所まで行ってしまっている。
なおかつその自分の価値を全くわかっていないんだ、きっと。
本人が当たり前だと思っているから。
あのデータベースだって、きっと本人にはその価値がわかっていない。
単に自分が調べるために当たり前じゃない労力をかけて作ったものだろうに。
高専1年の僕の適当な検索でも必要な論文がすぐ探せるくらい優れた代物。
でも修先輩にとっては当たり前にやった結果出来てしまった副産物程度の扱い。
あのデータ、本当は自分用の武器としてこっそりとっておくべき代物だろう。
「すみません。実は詩織先輩に聞いて、あのデータベースを使わせて貰っているんです。この組み合わせもあのデータベースで論文を調べて出した物でして」
ちょっと後ろめたいんでこれは告白してしまおう。
「ああ、それならいいんだ。詩織ちゃんにも自由に使ってくれって言っているし。うちの研究室の連中やオスカーなんかも自由に使っているしさ。
でもそれなら認証コード、個人用を作った方がいいか。ちょっと待っていてくれ。今認証コードと仮パスワードを作るから」
うん、修先輩は何も考えていない。
ちょっと他人事ながら心配になってくる。
「セキュリティとかは大丈夫なんですか?」
「一応この島内からしかアクセスできないようにはしてある。ログも全部とっているしね。その辺は前にオスカーに偉い剣幕で怒られてさ、少しは色々考えろって」
うん、オスカーさんの言う方が正しい。
それこそ兵器転用したらえらい事になりそうな理論等も普通に入っていたし。
プリンタが動いて紙が2枚分出てくる。
「これが2人用のIDと仮パスワードとログイン用のWWWアドレス。使い方は標準的なテキストベースのSQLだけれどGUIも一応用意している。詳細はHELPで出てくるから」
そう言って僕と典明に印字した紙を渡してくれる。
危険物なのでさっさといつものディパックに仕舞っておこう。
「ところであの増幅理論、どうやってこのデータベースで検索した?参考までに聞いておきたい。出来れば似たような組み合わせを色々試してみたいしさ」
修先輩がそんな事を言った。
「それはこんな感じで……」
僕は直接コマンドを打ち込んでみる。
「それなら他に使えそうな理論、まだありますね」
典明が検索結果を見ながらそんな事を言う。
「同じ増幅装置の二重かけというのは駄目なんですよね」
「魔法の場合は電気と違ってね、同じ増幅理論を2度使っても効果は出ないんだ。まあ今まで発見した理論では、だけれどさ……」
学園祭と全く関係無い研究会が始まってしまった。
◇◇◇
僕が昼前の魔法調理実演を終えて戻ってきても研究は続く。
僕が持ち込んだ焼飯セットを3人で食べながら。
さらに修先輩はSNSで香緒里先輩に連絡。
3時のおやつ差し入れを香緒里先輩一人でするように頼んだそうだ。
そんな訳で論文を選んで回路を作って僕が試してみてと。
10通り以上そんな事を繰り返して。
有望な組み合わせ1つ。
特性が面白そうな組み合わせ2つ。
それぞれの特性を試験をしているところで……
「もう今日の学祭は終わりですよ」
呆れ顔の香緒里先輩と詩織先輩が迎えにやってきた。
見ると外は暗い。
しまった!
屋台を仕舞うの手伝うのを忘れた。
「屋台の方は朗人が所用で忙しいと連絡しておいたのです。出し入れの時の鍵は私が開け閉めしたのです」
「済みません、詩織先輩」
取り敢えず助かったようだ。
「修兄からSNSが来た時点でこうだろうとは思ったんですけれどね」
「まあ予想通りなのですよ。揚げバナナで勘弁してあげるです」
それ位なら安い物だろう。
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