第187話 能ヶ谷君の地味な努力
月曜日は雨だった。
うちの屋台も売り物を少なめにしている。
焼き飯も20人前程度と少なめで、目玉焼きも提供寸前に作る形だ。
担当者も最小限配置。
でも、こういう日こそのんびりと学祭を見学できる。
人も少ないし呼び出される可能性も少ないし。
そんな訳で愛希先輩と2人で学祭を廻っている。
愛希先輩も今日は午後2時まで当番がないらしいし。
「愛希先輩は学園祭のお勧めとかありますか」
「うーん、学生会関係以外は実はあまり知らないんだよな。うちの科の連中はあまり模擬店系やっていないしなあ。
攻撃魔法系の研究室は基本的に出し物を出さないしさ」
「なら取り敢えず定番系に行きましょうか」
「そうだな」
そんな訳で、定番その1の創造制作研究会の喫茶店へ行こうとしたけれど。
「満員だね、これ」
さすがとしか言いようがない。
まあ確かに昨日食べた豆大福、無茶苦茶美味しかったけれど。
仕方ないので喫茶店の方を伺いつつ、創造制作研究会本来の売店を見てみる。
杖とか刀の他に家庭用電化製品みたいな物も並んでいた。
これはきっと修先輩の『はじめての魔法工作』と同じような製品だな。
こっちは完成品だけれども。
僕や詩織先輩や香緒里先輩が作った刀も並んでいる。
出ているケースの中、10振り入っているはずが半分しか無い。
そこそこ売れてはいるようだ。
と、売店の奥から知っている顔が出てきた。
「どうだい、景気は」
「うちの主力は向こう側」
同じ魔法工学科B組の山崎が視線で甘味処の方を示す。
「あっちは平日でも雨でも関係なく大盛況だけどな」
「確かに豆大福食べたけれど美味かったな。でもあれはプロの仕業だろ」
「まあな。まあ江田先輩も来春には店を出すみたいだ。だから今年までかもしれないけれどさ」
江田先輩とは奈津希先輩の彼氏で修先輩や香緒里先輩の知り合いの人だろう。
「お店って何処に出すんですか?」
あ、愛希先輩が聞いている。
「ハツネスーパーの建物だとさ。1階の通り沿いに場所を押さえて貰っているって言ってたな」
出店の話も大分具体化しているようだ。
ちょっと勿体ないような気がしなくもない。
これだけの味ならもっと人口の多いところ。
例えば東京辺りでも充分やっていけるだろう。
その方が注目もされるだろうし。
確かにこの島にはライバルは無い。
でも所詮は人口4000人程度の田舎。
採算的には結構厳しいんじゃないだろうか。
それとも案外企業なども多いから大丈夫なのか。
でも愛希先輩は喜んでいる。
「それなら来年春から毎日あのまんじゅうやどら焼きを食べられるわけか」
あ、思考が喰意地モードに占拠されているな。
山崎が僕の事をちょいちょいとつついて小声で聞く。
「今連れているの、空飛ぶ課題のデモムービーに出ていた彼女だろ」
良く覚えているもんだ。
「ああ、その人だけれども」
「あのときはフリーって言っていたけれど、ついに捕まえたのか」
「まあな」
捕まえたか捕まえられたかは微妙だけれども。
「いいよな。何か能ヶ谷も留学生の女の子連れて歩いていたしさ。魔法工学科で研究会がここだと出会い無いもんな」
あ、能ヶ谷の奴。
ひょっとしたらそのせいで屋台を頑張っていたのか。
うーん、なかなかに策士だな。
課題の時に田奈先生の好みを調べてA評価をとったように。
まあでも、あいつも色々努力しているけれどさ。
課題の時もあんな顔面像作っていたし、屋台も色々作戦たてていたし。
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