第186話 本気で美味しい豆大福
日曜日は40食×6回分の焼飯を作った。
10時にトロ箱2個分、12時にトロ箱2個分、15時にトロ箱2個分だ。
恐ろしい事にこれだけ作っても魔力の欠乏は全く感じなかった。
魔法使用間隔を空けたからとかいう問題とは違う気がする。
きっと僕の料理魔法レベルが更に上がったのだろう。
目には見えないし数値化も出来ないけれど。
なお土曜日分の売り上げは12万円を超えたそうである。
当初の売り上げ目標の2.5倍近くだ。
まあ何回も食べると飽きるだろうし平日は内部の人間ばかりになる。
だから明日からは大分売り上げは減るだろうけれども。
そんな訳で今日も屋台は無事営業終了して僕は学生会室へ。
顔を出すとソフィー先輩以外は全員揃っていた。
ソフィー先輩は予定表によると布教活動中らしい。
今日も食べたけれどあのラーメン、美味しいしな。
スパモン教そのものの布教は全くやっていないけれど。
「朗人も食べるか、豆大福」
「いただきます」
愛希先輩が箱から紙皿に入れて持ってきてくれる。
一口食べて気づく。
「これ、ものすごく美味しいですね。何処のですか」
何というか、餡も大福部分もとんでもなく美味しい。
僕はパンとか菓子類はあまり詳しくないのだけれど、これって相当な名店のじゃないだろうか。
「ここの学園祭の名物でさ。創造制作研究会で作っているんだけれど、人気がありすぎてなかなか買えないんだ。修先輩や香緒里先輩は顔見知りだから裏から直接買ってくるけれど」
ええっ。
「こんなの模擬店のレベルじゃないでしょう」
断言してもいい。
デパートとかでも扱っていないレベルだ。
「確かに模擬店のレベルでは無いですけれどね。でも元々あそこの部長だった人が作っているのですわ。
やっぱりプロの仕業だったか。
「在学中から既に美味しかったらしいのですよ。魔法工学科の大先輩で奈津希先輩の彼氏なのです。工作魔法、特に材料の調整と加工が得意な魔法使いで修先輩や香緒里先輩の知り合いなのです」
う、それはつまり魔法工学ならぬ魔法料理学の先輩か。
うーん、微妙な気分。
いや、この豆大福は間違いなく逸品なのだけれど。
どういう人なのだろう。
元々お菓子作りを目指していたのだろうか。
それとも、と考えて気づく。
創造制作研究会といえば実作系研究会の最右翼だ。
そこの部長で工作魔法使いなら大学に編入できないという事はまず無いだろう。
という事は積極的に菓子作りという進路を選んだという事だ。
それは最初からの志望だったのだろうか。
途中でそういう風に進路を変更したのだろうか。
待てよ、そう言えばその先輩の彼女で学生会の先輩の奈津希先輩。
確かあの代の攻撃魔法科の首席だったって言っていたな。
何故攻撃魔法科の首席がパンや洋菓子作りでフランス留学をしているんだろう。
魔法料理学の先達についてつい考えてしまう。
でも考えてみると、僕はまだ魔法工学科で何をしたいという事すら決めていないし考えていない。
まあまだ魔技高専の1年だし、当たり前と言えば当たり前だけれども。
魔技高専は他の高専以上に大学編入率が高いし。
「ん、どうした朗人。何か考え事か?」
「成分分析してこの豆大福を作れるようになってくれたら嬉しいのですよ」
「これは無理ですね。成分を分析してもここまでに仕上げるのはセンスです」
同じ材料を使い同じように調理してもきっと同じものを作れない。
この豆大福はそういう域のものだ。
「うう、残念なのです」
詩織先輩が本気で残念がっている。
でも確かにこれ、それくらいに美味しいけれどさ。
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