第185話 屋台営業は順調です

 緊急招集は能ヶ谷の仕業だった。


 屋台に午前中には無かった紙が貼ってある。

『夕方4時からの限定メニュー 宴会セット5人前2500円 タイ風焼飯5人前+目玉焼き+揚げもの20点以上(指定不可、お任せ)』

 しかもその紙、大きく×印をして『売り切れ』と書いてある。


 張本人の能ヶ谷曰く。

「いや、余りそうな材料を一掃する為にセット売りするのを考えたんだ。そうしたら予想以上に注文が入ってさ」

 余り物どころか新しい袋を開けて女の子達が揚げ物をどんどん揚げている。


「参考までにいくつ入ったんだ」

「8組、焼き飯1回分だ。これ以上入ると三輪の魔力が心配なんでやめておいた」

 セットメニューに焼飯を入れた時点で僕の招集は決定していたのだろうけれど。

 そしてお約束とばかりにいつものトロ舟が置かれている。

 既に米と水が入った状態だ。


「今度は実演はいいから頼む」

「わかった」

 まあ能ヶ谷の屋台に対する情熱は認めよう。

 今日はほとんどこの屋台にいたみたいだし。

 そんな訳で高速調理を開始。


 困った事に今日だけで4回目のせいか、大分この魔法に慣れてきたのがわかる。

 きっと料理魔法レベルがまた上昇しているんだろう。

 他の魔法レベルもこれくらいわかりやすく上がればいいのだけれど。


 出来上がったトロ舟の焼飯を女性陣が集団で大皿に盛り付ける。

「なかなか豪勢なセットだな、出来てみると」

 アルミ製大皿2枚に焼飯と揚げ物多数が割と見栄え良く並んでいる。

 この2枚で1セットなんだそうだ。


「揚げ物は20点以上と書いているけれど、実際には30点入れている。コストの安いカニカマ10点とヤングコーン10点、バナナときのこが5点ずつだな。単品売りより安いけれどまとまった額入るしさ。数が多い分お得に見える」

 色々考えているようだ。


「あと、明日からは焼飯と鶏揚げ、好みの80円揚げ物1品で500円で売り出す予定だ。好みの揚げ物が80円以外なら差額追加でOK。今日の売り上げは絶好調なんだけれど、出来れば客単価をもう少し上げたい」


 能ヶ谷、魔法工学よりこっちの方が向いていないか?

 まあ僕も魔法料理学と言われそうなので言えないけれど。


 宴会セットが全部出来て、それぞれ注文先へと女の子達が出前に行った。

 本日の屋台営業はこれで終了。

 片付けモードに入る。

 フライヤーの油を抜いて缶に入れ、冷凍冷蔵庫以外の外側部分は攻撃魔法科の女の子が熱魔法で燃やして清掃&除菌。

 学生会工房へとモーター動力で移動させる。


「それにしても三輪、悪かったな。随分こき使って」

「それについては色々あるけれどさ、能ヶ谷だって今日はほとんどこの屋台かかりきりだっただろ。大変だったんじゃないか」

 見ている限り要所要所で能ヶ谷が屋台を仕切っていたような気がする。


「まあな。三輪と違って俺は魔法使えないからさ。その分色々頑張らないと」

「僕だって授業に使えるような魔法は全然だ。専用杖を使ってもこんな魔法ばっかり。魔法工学じゃなくて魔法料理学って感じだし」


「それでも羨ましいな。折角特区ここに来たんだから魔法使えるようになりたいやん」

「僕も元々は魔法を使えなかったしさ。

 能ヶ谷もそのうち使えるようになるんじゃないか」

「だといいけれどな」


 そんな事を言いながら歩いているともうすぐ学生会の工房だ。

 僕は一足先に走っていって鍵を開ける。

 シャッターを上げるとちょうど屋台がやってきた。

 屋台を中に入れて固定し、冷凍冷蔵庫内の食材を工房の冷凍冷蔵庫に移動して今日の作業は終了だ。


「どうする、このあと何か食べていくか」

「いや、僕は学生会に戻るよ。すぐそこだしさ」

 と工房前で屋台の他の皆さんと別れ、僕は学生会室に向かう。

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