第183話 黒幕の正体

 眠い。


 原因はわかっている。

 魔力が残り少ないからだ。

 理由も明らか。

 カオパットを合計160人分調理した為だ。


 そんな訳で俺は屋台より更に奥。

 パイプ椅子に座ってバテている。

 なお能ヶ谷の有り難いお言葉。

「連続3回まで大丈夫なのは先週に試作した時に確認したんだ。補助魔法科のアヤナちゃんが残留魔力を測定してさ」


 完全に計画的犯行である。

 なお3回目で最後にしたのは他にも理由があるそうだ。

 1週間分買った筈の材料を初日午前中にして半分以上使ってしまったらしい。

 なお既にハツネスーパーに電話で材料発注済みとの事。

 ホアンマンに頼んだ生パクチーも実は予定の倍以上送って貰っていたらしい。

 色々と手配が行き届いている。


「いや20人以上で割るならもう少し儲けを増やしたくてさ。月曜に三輪以外の主要メンバー集めて会議したんだ。それで初日すこし飛ばしてみて、大丈夫そうなら追加しようって」


「今日はこの後、別予定が入っているから14時半までは来られないぞ」


「三輪の予定は把握済みだ。だから今日は出番終わり。なので心置きなく魔力を使って貰った。そして明日の看板も作ってある」

 能ヶ谷は僕にスマホの画面を見せる。


『魔法調理実演予定10:00、12:00。5分で米からカオパット!魔法調理の技と味をお確かめ下さい』

 そんなイラスト入り立て看板が何処かの教室で作成途中状態で写っている。


「看板部隊が鋭意作成中だ。あとさっきの魔法調理をハイビジョンで撮影してある。今夜編集してビデオクリップにして明日からここでも流す予定だ」

 徹底して計画的犯行である。


「平日は10時からの1回だけ。ただ祝日と土日だけはこの予定で頼む。後でSNSで改変後の予定表は送るから」

 文句を言いたいところだがその気力も無い。

 学生会室で少し休もう。


 だがその前に能ヶ谷にひとつ聞いておきたい事がある。

 今の看板のイラスト、そしてさっき僕を撮っていた機材が気になったのだ。


 ◇◇◇


 眠くてだるい体をひっぱって学生会室へ辿り着く。

 そしてちょうど僕の目標ターゲットが学生会室にいた。


「朗人さん、眠そうだけれど大丈夫ですか」

 ソフィー先輩だ。

 当番がてらここで昼食中だったらしい。

 見覚えある焼飯カオパットと揚げ物セットが前に置いてある。


「売れ行き好調で魔力が限界です。僕の調理魔法の情報と予定を横流しした誰かさんのおかげですね。まさか詩織先輩まで動かして今回の事を企んでいたとは思いませんでした」


 そう。

 全ての黒幕は詩織先輩では無くソフィー先輩だった。

 典明や青葉に俺を屋台に推薦させたのも。

 詩織先輩が先週土曜日に皆の前でカオパットを作らせたのも。

 魔法調理の実演とかのアイディアを出したのも。

 更に学生会に申告していた僕の予定を流したのまで。


「ごめんなさいね。留学生会は知り合いが多いのでつい」

「人数が多いからと1年生を学生会の当番から外したのも、その為なんですね」

「ええ」

 ソフィー先輩は頷く。


「今年の留学生会1年は小遣いにも困っている子が多くてね。ちょっとでもいいから儲けさせてあげたかったの。でも何処で気づいたの?」

「作成中の看板のイラスト、あれはソフィー先輩ですよね。あと僕を撮影していた動画撮影可能な一眼レフ、あれは学生会の広報で使っている奴でした」

 それに気づくまでは実は詩織先輩が黒幕だと思っていたのだ。


「その通りよ。ごめんなさいね」

「いや、状況はわかったし納得できるからそれでいいです。その代わりここで眠らせて下さい」


 黒幕も理由もわかった。

 それにソフィー先輩の気持ちも理解できる。

 確かに奨学金のみで生活している留学生には生活苦しい人もいるしさ。

 だからもう、この件についてはそれでいい。


 取り敢えず僕は魔力切れ寸前で眠い。

 という訳で愛希先輩が起こしに来るまで。

 しばしここで僕は机に突っ伏す事にする。

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