第180話 刀の出荷準備完了
詩織先輩はすぐに戻ってきた。
このまま知らない研究室に残されたらどうしようかと思ったのだけれども。
「修先輩はとりあえず風遊美先輩と香緒里先輩にみっちりと怒られているのです。あの2人に絞って貰うのが修先輩には一番効くのです」
色々と僕にはわからない関係性というのがあるのだろう。
そして詩織先輩は作業台上の不明な装置のスイッチを2つ操作し、そして魔法ブロックを僕に渡す。
「これは朗人に返すのです。理論や構造は既に修先輩の頭に入っているから問題無いのです」
そう言って部屋の電気を消し、内側から窓や入口の鍵を全部閉めていく。
「そういう訳で工房に戻るのです。作業続行なのです」
詩織先輩の魔法で工房へと戻ってくる。
「あとは箱詰めと検品だけなのです」
という事で中断していた作業を続行。
月曜放課後に刀は展示ケース兼収納箱に入れた状態で第1工作室へ持って行く。
そのまま提携している創造制作研究会の売店へ販売委託するそうだ。
手数料等は無い。
向こうも商品が多い方が客が増えるので歓迎しているそうだ。
元々修先輩と香緒里先輩は学生会以前は創造制作研究会に所属していて、それ以来の縁だとの事。
そして計100振り、作業が終わった。
「さて、これだけ作っておけば在庫が足りなくて酷い目にあう事も無い筈なのです」
「そんな事態があったんですか」
詩織先輩は頷く。
「ほぼ毎年なのです。特に私が1年の時は大変だったのです。ここで刀を作り出した初めての年だった事もあるのですが、4月頃までかかってようやく注文残が無くなったです。その次や昨年はそれほどでもないにせよ、結局11月中は追加注文分を2人でちまちまと作っていたのです」
そう言えば前に聞いたような気もする。
色々大変だった訳だ。
「それに今作っておけば、在庫になっても来年の新学期の時にまた新入生に売れるので問題無いのです。攻撃魔法科でこれを愛用している人は常に一定比率いるのです。中には毎年買い換えている有り難い方もいるのです」
でもこの刀、結構お値段するんだけどな。
学内(高専もしくは大学)割引で約10万円、学外だと約40万円。
確かに物に比べたら安いのかもしれないけれど。
なお今回は詩織先輩40振り、僕が40振り、香緒里先輩が20振り作っている。
売り上げを4割、4割、2割で分ける予定だ。
全部売れるといくらになるのだろう。
全国の貧乏学生の皆様に申し訳なくなってくる。
薊野魔法工業のアルバイトだけでも申し訳ないのに。
他にも今年はエアスケーターの収入もあるし。
まあ来年以降はそうそう簡単に稼げないだろうけれど。
「それにしても朗人は案外色々才能があるのかもしれないです」
工房を閉めながら詩織先輩が妙な事を言う。
「魔法すら未だに杖無しでは大して使えないですよ」
「それは修先輩も同じなのです。それにあの魔法ブロック、いくら修先輩でも相当の可能性を感じなければ爆発覚悟で実験したりはしないのです。あの組み合わせにはそれだけの価値があったはずなのです。
それに使えないと言っている魔法も、覚えてまだ半年経っていないのです。しかも魔法特性として研究には大変便利なのです。純粋に魔力だけを放出できるなら装置無しで色々と機器を実働させたり出来るのです」
「そうだといいんですけれどね」
「順調すぎると後が大変なのです。香緒里先輩は収入が順調すぎて確定申告で泣いたのです」
おいおいおい。
実話なんだろうけれどリアルすぎて笑えないぞ。
「ただ問題は魔法で何をするかなのでしょうけれどね」
そう、僕はこの学校に来たのはいいけれど特に目標とかやりたい事などは考えついていない。
中学卒業から半年だから当たり前と言えば当たり前なのだろう。
でも先輩方を見ていると時々その辺に焦りを感じてしまう事もあるのだ。
「とりあえずは今日の昼食なのです」
あ、しょうも無いが現実的な意見が返ってきた。
まあいいか。
今すぐ焦る事も無いだろう。
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