第179話 反省室とかありますか

「あ、香緒里ちゃん、ありがとう」

 そう言って修先輩が体を起こす。


「いやあ、派手に爆発したなあ」

 その言葉のあまりの危機感の無さに女子2人が呆れ顔。


「何脳天気な事を言っているのですか。高専からでも派手にわかったのですよ」


「それで香緒里ちゃんにお願いが……」

「その前に。もうこんな無茶な実験はしないと約束してくれますか!」


 修先輩、香緒里先輩に怒られた。


「どうせ大学当局にばれる前に直すから魔力貸してくれと言うんでしょう。でも約束するまで手伝ってあげません」

「いや、まさか爆発するとは……」


「嘘なのですよ」

 今度は詩織先輩だ。


「今の机配置を見てみると、明らかに爆発の可能性を想定しているのです。作業机の高い処で実験をやって、なおかついざという時に備えて机とロッカーを遮蔽用に移動しているようなのです。これは間違いなく確信犯なのです」

 詩織先輩も容赦無い。

 言われてみると確かに机の配置とかが変だ。

 しかし詩織先輩、よく気づいたな。


「どうせ私と詩織ちゃんが近くにいるのがわかっていて、かつ爆発に誰も巻き込まないのを確認してから実験したんでしょう。

 だからもう二度とこんな無茶な実験をしない。

 そう約束するまで手を貸してあげません」


 僕には全然わからないが、この2人には修先輩の行動なり考えは丸わかりらしい。

 きっとそれだけ付き合いが長くて深いのだろう。


「わかった。認める。確かに爆発というか何か起こる可能性は予期していたし机の配置もロッカーを前に置いたのもそう。更に言うと香緒里ちゃんと詩織ちゃんが学生会工房にいるのも魔法で確認済み。

 それは認める。悪かったから……」


「もうしないという約束は」

「ごめん。出来るだけしないように心がける。どうしても必要な実験の場合はもう少し安全性を考えてやるから……」


 やらない、とは言っていない。

 何というか……正直というか……


「まあ仕方ないですね。今回はそれで手を打ってあげます」

 香緒里先輩はそう言うと修先輩の手を握った。

 修先輩が左手でプログレスを構える。

 悲惨な状態だった研究室が急速に元の状態へと戻り始めた。


 詩織先輩が小さくため息をつく。

「香緒里先輩は修先輩に甘いのですよ」

 何かその様子が微妙に笑える。


 約5分で爆発の痕跡は完全に無くなった。

 そして作業台の上には……魔法ブロック!

 これって……


「ひょっとして爆発したのって、僕のせいですか」

 僕が昨晩修先輩に預けたあの魔法ブロックだ。


「いや、朗人のせいじゃない。途中で魔法を増幅しながらため込んでいくのには気づいていたんだ。だから限度を超えると爆発するのは予想できた。

 ただ、折角だから限界はどれ位かを確認しようかと……」


「修兄!」

 あ、また怒られた。

 でも修先輩はひるまない。


「とりあえず限界もわかったし、この回路が危険ながらもなかなか有用なのが確認出来た。

 ただ魔法杖として常用するのはお勧めできないな。理由はまあ、見たとおりで。

 実用として使うなら魔力圧が規定値を超えたら開放するバイパス回路をつければいい。今はまだ微弱な魔力しか使えない魔法電池でも産業用機械を実用的に動かせるようになるかもしれない。

 まあ上手く行けば、だけれどね」


 あ、香緒里先輩と詩織先輩が何やら顔を見合わせて頷いている。

 そして。


「とりあえずその前に、修兄は反省の必要があるようですね」

「同意なのです」

 僕を残して3人の姿が消えた。

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