第176話 ちょっと試してみてみよう

「なら某スポーツ用品メーカー開催のエアスケーター試乗会スタッフに差し入れで持って行こうか」

 愛希先輩まで攻撃してくる。


 エアスケーターとは夏休み前に僕がパテントを売った会社の新製品だ。

 要は課題で僕が作った折りたたみ型空中飛行機械フライトボード

 あれの量産版である。


 日本では公道で乗ったりする恐れがあるとのことで遊戯施設やスキー場等の企業による購入しか現在は許可されていないらしい。

 だから販売の中心は海外だそうだ。

 それでも夏のゲレンデスポーツとして売り上げは好調らしい。

 来年には世界大会も開かれるとの事。


 そこで開発場所であるここ特区で試乗会とデモをするそうだ。

 一応僕も呼ばれているが、基本的に僕はただ座っているだけ。

 愛希先輩がデモ演技等をする予定だ。

 あれに乗っている愛希先輩の動画がそれなりに世界中に広まってしまったせいでもある。

 本人は喜んで参加するようだけれども。


「頼むから余分な仕事を増やさないで下さい。お願いします」

「まあ基本的には全部朗人の蒔いた種なのです」


 ぐさっ。

 確かに否定できない。

 うん、こういう時は料理に逃げよう。


 冷蔵庫兼保存庫を見るとまたトビウオの煮干しがある。

 よし、本日の研究課題はアゴ出汁をいかに魔法で早く雑味無く抽出するかだ!


 こんな事ばかりやっているから魔法工学より魔法料理学が進歩してしまう。

 それは僕も重々わかっている。

 わかっているんだけれども治らない。

 なまじ便利だし喜ばれたりするから余計に。


 ◇◇◇


 夕食食べて風呂入った後の自由時間。

 僕は魔法ブロックと寮から持ってきたパソコンを持って畳部屋その2に籠もる。

 主にルイス先輩と僕が寝るときに使っている部屋だ。

 今日は男性更衣室で詩織先輩が怪しげな工作作業をしている。

 だから今日はその2の部屋だ。


 最近は魔法ブロックも最強パターンでの確認以外に色々組み直して試している。

 純魔力増幅回路と二重増幅型魔法付けの回路、つまりモノセロスとヘリテージ簡略版の直結杖も作ってみた。

 残念ながら結果は今ひとつ。

 モノセロス単体の方が使いやすいという結果だったけれども。


 そして今日は反復共鳴型増幅回路の使用実験。

 反復共鳴型増幅回路は論文データベースを漁っている時知った回路だ。

 ちなみにその論文は修先輩の個人用データベースから調べた。

 詩織先輩がデータベースのアドレスとパスワードを教えてくれたのだ。


「特に魔力増幅関係の資料が簡単に検索できるのですよ」と。

 個人用のデータベースなのにきっちりSQLで書かれている辺りは修先輩の性格なのだろう。

 おかげで大変使いやすい。


 さて、反復共鳴型増幅回路は単体ではプログレスより増幅率は劣る。

 しかも立ち上がりが僅かに遅いとの事だ。

 ただ均質な魔力を取り出しやすいらしい。

 僕のような魔力が小さくて安定しない、つまり今ひとつな魔法使いにとっては有り難い性質だ。


 まずは反復共鳴型増幅回路単体での魔法杖を魔法ブロックで作成してみる。

 あ、これはちょっと面白いかもしれない。


 最初にパワーが立ち上がるまではちょっとタイムラグがある。

 ただその後は安定したパワーで使いやすい。

 タイムラグがある分攻撃魔法科とかには使いにくいだろうけれど、僕みたいな魔法使いには便利な特性だ。


 さあ、これを純魔法増幅回路、つまりモノセロスと合体させてみよう。

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