第174話 魔法高速調理術

「という訳で保養所分とここ分の南国風焼飯、ぱぱっと魔法で作るのです」

 はいはい、了解しましたよ工房長様。


 まずは鶏肉を魔法で加熱しながら切り刻んで全体に散らす。

 肉と言うよりこれは出汁だという感じで。

 冷凍タマネギと冷凍挽肉も同様。

 全体に混ざったら炊飯魔法を一気に発動。

 何か外野から色々声が上がったようだが無視。


 炊けたら缶入り調味料とナンプラーとシーズニングを入れて、腕力と魔法でかき混ぜながら混ざり具合を確認。

 最後に御飯の上を少し均して、上にタマゴを全部割って載せ、がががっと加熱して目玉焼きにするとともに表面を少し焼けば完成。

 パクチーは嫌いな人もいると思うので別皿に刻んで盛り付ける。


「うん、相変わらず素早い出来なのです。それでは報酬としてその杖を学園祭期間中だけ貸してあげるのです。あとこの中の物は学祭終了まで自由に使っていいのです。それでは保養所の分の御飯はいただいていくのです」


 詩織先輩はトロ舟1箱を抱えたロビー先輩とともに姿を消す。

 そして僕とモノセロスが残る訳だ。

 ああ、何と余分な事を。

 まあそれでも出来てしまったものはしょうが無い。


「そんな訳で、昼ご飯用カオパットです。何なら揚げ物用のソースを適当に目玉焼きにかけたりして食べて下さい」


「というか、今のは何の魔法なんだ。俺ははじめて見たぞ?」

 能ヶ谷が引っかかっている。


「単に米に水分吸わせて熱加えてデンプンをα化する魔法だ。通称は炊飯魔法」

「何だそりゃ」

 そう言われても困る。


 と、その時。

「お、美味いこれ」

 ホアンマンの声だ。

 彼は既に紙皿にカオパットと目玉焼きを載せ、ちょっとパクチー添えてナンプラーをかけて食べている。


「うちの国と違う味だけれどいける。作り方は冗談みたいだけれど」

 あ、皆が次々によそい始めた。

 そして食べ始める。


「何これ。あんなんでちゃんと御飯になっている。しかも美味しい。ちょっと味薄いけれど」

「最後の味は自分で調節するんだ。そこのシーズニングかナンプラー、チリソースでもいいかな」

「悔しい。あんな簡単そうに作って私が作るチャーハンより美味しい」


 あ、不味い事態になりつつある。

 確かに今のはトロ舟で適当に作ったように見えたかもしれない。

 でも実は色々練りに練ったレシピだ。

『飯までまだ時間があるけれど腹減った』というわがままな学生会の魔女用として。

 できるだけ早く簡単に、材料も最小限でそれでいて味は本場並みに。


 肉から出る油と仕上げの攪拌&熱通し、更にジャスミンライスを使う事でちゃんと炒めたようにパラパラになっている。

 味のバランスもかなり研究した。

 申し訳ないけれど出来合いの冷凍品を揚げただけのレシピとは訳が違う。

 でもこの場合はそれがマイナスに働きそうな……


 あ、誰かが今使った材料をチェックしている。

「生パクチー以外は何とか揃う材料ね」

 ここは特区で割に国際色豊かなので、ハツネスーパーでも各地の調味料やタイ米等を売っている。

 そして仰るとおり、今回の材料は生パクチー以外ハツネスーパーで揃う物ばかりだ。


「魔力は減っているけれどこれくらいなら1時間程度で回復できますね」

 僕の魔力を分析している奴までいる。


「その杖を使えば誰でも今のを作れるのかな」

 あ、名前は知らないけれど補助魔法科の女子が聞いてきた。


「この杖はあの先輩が個人用に研究しているものです。ですから多分僕以外は使えないと思います」

 そう言ってモノセロスを渡してみる。

 モノセロスは使える人間が少ないから大丈夫だろう。

 そうは思ってもドキドキする。


 彼女は杖を構えてちょっと目を閉じてみる。

「うーん、この杖は癖がありすぎて私には使えないみたい」

 ほっと一安心。

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