第173話 試食に出てきたグレムリン

 電動式豪華屋台がそろそろ完成するかという頃。

 能ヶ谷率いる台車部隊がゴロゴロゾロゾロと大学方面からやってきた。

 ハツネスーパーに注文していた材料を持ってきたのだ。


「何か結構あったぞ。店の台車も借りてきた」

 ちょっと凍り付いている段ボールだの油の缶だの色々積んできている。


「これでも足りない位だといいんだけどな」


「あとこの白絞油って何だ。サラダオイルか?」

「揚げ物用の酸化しにくい油だ。1日1缶使うとして9缶。あ、冷凍庫はこっち」

 女子の持っていた台車をひとつ取り上げ、押しながら場所を案内する。


「しかしこの場所は便利でいいな。冷蔵庫完備でキッチンまである」

 今日はここで試食会までする予定だ。

 そのために揚げ物用の鍋も持ってきてある。

 ここにある鍋では大きすぎるから。


 試食用にボトルで買っておいた缶と同じブランドの油を入れて、温度が上がる前にボールでさささっと小麦粉と水を混ぜて衣を作る。

 能ヶ谷が当日出す予定のソースと具材の一部をピックアップしてきた。


 という訳で揚げ物作成開始だ。

 まあ衣をつけて揚げるだけだけれども。

 そんな訳で学生会備品の魚祭り用揚げ物パットにガシガシと揚げては並べていく。

 試食と言っても21人分を7点ずつだ。

 結構ある。


「揚がった順に食べて下さい。揚げたての方が美味しいですから」

 という訳で試食会開始。


「うん、予定調和な味」

「悪くないわね。これなら結構売れるかな」

「オイシイ。でもアツイ」


 色々な意見が聞こえる。

 まあ大体は好評なようだ。


 さて、僕はちょっと身構える。

 ここはあの人の本拠地だ。

 そこで食べ物を扱っている以上、そろそろ出てくるだろう。


「いい匂いがするので失礼するですよ」

 やっぱり詩織先輩が出てきた。

 今回はいきなり中に出現!ではなくちゃんと外から顔を出した。

 大きめの段ボール箱を抱えたロビー先輩をお供に付けている。


「学生会の詩織先輩とロビー先輩。この工房を貸してくれた工房長と副長だ」

 さっと皆にそう説明して詩織先輩に聞く。


「詩織先輩、その荷物は何なんですか」

「揚げ物だけだと昼ご飯には足りないと思ったのでお土産とご提案なのですよ」

 うん、間違いなく嫌な予感がする。


 ロビー先輩が魚祭り用のトロ舟2つを工房奥から持ってくる。

 焼き物揚げ物用の焦げ付き防止付60度あたためバージョンだ。

 詩織先輩が段ボールを開けて中身を取り出す。


 タマゴが10個入り5パック、ナンプラー1瓶、シーズニングソース、冷凍鶏もも肉2キロ入り、冷凍豚挽肉350グラム2袋、缶入り調味料……

 ジャスミンライス10キロ袋、そしてお馴染みパクチーも出てくる。

 ロビー先輩がジャスミンライスの袋を持って行き、がさっとトロ舟を洗った後にトロ舟2個に均等になるように米を入れ、水を入れて持ってくる。


「そんな訳で朗人、よろしくなのです」

 ああやっぱり、あれを作れという事だな。


「さすがにこの量だと僕の魔力は限界なんですけれど」

 デイパックの中に一応モノセロスは入っている。

 でも皆の前で出して使う訳にもいかない。


「ならば研究中のスペシャルな杖を貸してやるのです」

 詩織先輩はわざとらしくそんな事を言って、どこからともなく杖を取り出す。

 うん、これは僕のバッグの中に入っていたモノセロス改そのものだ。


 でもこの状況なら使ってもいいだろう。

 自分の杖でなくあくまで研究用を借りたという口実にして。

 その間にロビー先輩はトロ舟の中に材料を入れてガシガシとかき混ぜている。

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