第171話 恵まれているということ

「きっと朗人はあまり気づいていないんだろうって思うんだ。

 ここへ来ての半年間ちょっとでどれ位のことをやったか。

 どれくらいの成長をしたか。

 どれ位の事を残せたか」

 愛希先輩はそう話し始める。


「学業成績の方は詳細知らないけれど、他はきっと他人ひと以上に順調だと思うな。

 例えば実習課題でA判定取っただけで無く一般企業から認められたりとか。

 あのスポーツ用品メーカー、あの飛行機械が人気絶好調で学祭にもイベントで来るんだろ。

 他にも魔法を全然使えなかった筈なのに今じゃ杖無しでもある程度使えるとか。

 モノセロス使えば攻撃魔法科並みの魔法も使えるとかさ。

 ここまで中学卒業から半年程度。

 そう思うと随分と成長したような気がしないか」


 確かにそうかもしれない。

 でもその理由は簡単だ。


「それは僕が人より恵まれていたおかげですよ。

 成り行きで入った学生会ですけれど、おかげで愛希先輩や詩織先輩やらに出会えて。

 魔力そのものは魔法訓練具のおかげですし、魔法をある程度使えるようになったのは愛希先輩が色々教えてくれたからです。

 それに修先輩の杖はチート以外の何物でもないですしね。


 実習で作ったあの飛行機械だってそうです。

 僕には設備の整った学生会の工房がありましたし相談出来る先輩もいました。それにあの飛行機械が会社の目についたのは多分に愛希先輩の動画のおかげです。イベントに愛希先輩も呼ばれていますよね」


 実際そうなのだ。

 巡り合わせと運が人より遙かに良かった。

 そんな感じだ。

 でも愛希先輩はにやりと笑う。


「本当に全部、他人のおかげかな。

 これは詩織先輩からの又聞きだけれどさ。そっちの主任教授が言ってたらしいよ。

『今年はこれ程環境を調えたのに、実作を作ってきた学生は3割もいなかった。その中で少しでも自分なりの工夫が感じられたのはその半分も無かった』

ってさ。

 朗人はどうだったかな。


 それに詩織先輩は限定的だけれども未来予知が出来る。そんな詩織先輩が偶然に魔法訓練具なんて渡すと思うかな。

 運とか巡り合わせとかはただ待っているだけでやってくるほど甘い物じゃ無い。

 それを活かせる能力なり行動なりあってことだと思うんだ。

 それに人より恵まれているなんて言ったら私もまさにそれだぞ」


 愛希先輩はそんな事を言う。


「例えば私が魔法を使えるのはたまたま中2の時に上町先生に誘われたおかげだ。

 ついでにこの学校に合格したのは半分以上は理奈のおかげだな。

 あいつは人に教えるのも上手いんだ。

 あいつが一緒に魔技高専を受けてくれなかったら間違いなく私は落ちていたな」


「理奈先輩は愛希先輩のおかげで魔技高専ここに来たって言っていますけどね。愛希先輩と会わなかったら狭い世界で嫌な奴になっていただろうって」


 愛希先輩は肩をすくめる。


「買いかぶりだよ。あいつはきっと何処でもそつなく優等生でやっていける。魔法だって本当はもっと色々使えるんだ、沙知と同じタイプでさ。実際中学時代は色々な魔法を使っていたし」


 愛希先輩と理奈先輩の関係はある意味見ていてなかなか面白い。

 全然タイプが違うし良く喧嘩をしていたりする。

 その癖よく一緒に行動している。

 色々言いつつも相手を尊敬しているし信頼している。

 見ていて羨ましい関係だ。


「まあ話がちょっとずれたけれど、要はあまり焦るなって事だな。

 あともう少し自分に自信をもっていいかな。

 大丈夫、それだけの事は実はやっている。焦らなくてももっと色々出来る。

 それに気づいて欲しいんだ」


 こういうところが愛希先輩、彼女で先輩なんだよな。

 こっちがちょっと自信なくしてたり悩んでたり焦ってたりするとすぐ気づく。

 この人も僕に勿体ない位の存在だな。

 そんな事を思ってしまう。

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