第170話 黄昏時の散歩中に
学園祭の書類もほぼ出尽くした。
勿論遅れてやってくる申請書類もある。
でもそれくらいはソフィー先輩が片手間で処理できる。
なので僕はまた放課後は工房で刀作りの日々に戻った。
違うのは寮に帰った後、就寝前に例の魔法ブロックを試してから寝る事。
魔法ブロックは勿論モノセロス+プログレスの最強出力モードで組んでいる。
気絶する寸前に手を離せば取り敢えず問題はない。
万が一気絶しても朝まで寝れば普通に魔力は回復するし。
そんな訳で就寝前の10分少々は魔法ブロックを持ったり離したりしながらの魔法体験にあてていた。
少しは僕の魔法の特質も色々わかったような気がする。
僕の魔法は対象に到達した時点で、対象に対してどんな動作をするかを決定する。
例えば対象が水なら温めたり冷やしたりする動作。
対象が人間ならどんな外見でどんな行動をしているかの情報を見るという動作。
この動作を自由に変えられれば色々な魔法が使えるのだろう。
それには対象をどう変化させるかの知識がきっと必要だ。
例えば僕の即時炊飯魔法。
これは炊飯というもののメカニズムを知っているからこそ出来るのだろう。
デンプンの粒子の間に吸水させて熱を加えてデンプンをアルファ化して。
そんな複雑な処理もそれをよく知っているからこそ魔法で出来る。
なら他の事もその原理やメカニズムを良く知っていれば出来るのではないか。
そう思うと色々な授業が急に大事に感じられてくる。
ただ僕の学力はクラスの中では中の上か上の下くらい。
学科によっては苦手な物も結構ある。
それに魔法ブロックや杖を使わないと魔法はあまり使えないままだ。
検定魔法もモノセロスを使ってさえある程度の大きさのものの強度がわかる程度。
それでも。
「何か新学期になって、朗人の魔法も随分成長したな」
木曜日の夕方、愛希先輩がそんな事を言った。
今は学生会が終わった後、寮に帰るまでの間、愛希先輩と少しだけ遠回りして帰ることにしている。
本当に少しだけの遠回り。
例えばスーパーに寄って買い出しをしたりとかその程度。
ちょっと遠出すると港まで往復20分とか。
なお同じような事を典明と美雨先輩もやっているらしい。
あそこは話す事が無くなると盤無し将棋とか盤無しオセロとかやっているらしいけれど。
一緒に肩を並べて散歩しているだけでも僕はそれなりに楽しかったりする。
会話は8割方愛希先輩が振ってくれるし話してもくれるんだけれども。
「魔法が成長したって、魔力はあまり変わっていないと思うんですけれどね」
愛希先輩の言葉に対して僕はそう返す。
実際それが僕の実感だ。
杖無しでは大した魔法は使えない。
「魔力はそのうち追いかけてくるさ。私も経験があるんだ。もともと私も魔法は使えなかったしさ」
「でも愛希先輩は魔力があると言われてトレーニングするようになったんですよね」
その辺りのことは愛希先輩自身や理奈先輩に聞いている。
「うん、そうなんだけれどさ。でも今思うと当時の私の魔力、朗人とそんなに変わらなかった筈なんだ。今だから色々わかるんだけれどさ。
きっと上町先生は私の魔力を見ていたんじゃないんだと思う。見ていたのは魔力で無い別のもの。私はあまり頭が良くないからうまく言葉に出来ないけれどさ」
愛希先輩は何かもどかしげにそんな事を言う。
何を言いたいのだろう。
僕は愛希先輩の言葉を待つ。
「ううー、やっぱり適切な言葉がうまく浮かばないな。ちょっとそこの公園入っていいか」
この公園の名前は『港の見える丘公園』。
間違いなくパクリ名称だが確かに坂の向こうに港が見える。
本家本元と違って実態は単なる児童向きの公園だけれども。
暗くなりつつある時間帯だからか他に人はいない。
「いいですよ」
僕はそう返事して、愛希先輩と一緒に公園に入る。
愛希先輩の横をついていき、ブランコ2台に1人ずつ腰を下ろす。
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