第167話 原因追及班の説明
男子更衣室、今の時間は工作室かな。
扉は開いていたので中をのぞき込んでみる。
魔法工学科が勢揃いしている。
修先輩、香緒里先輩、詩織先輩、ロビー先輩、それに典明だ。
修先輩が僕の方を見る。
「ああ、申し訳ないけれどちょうど良かった。もう身体の方は大丈夫かい」
「ええ。使える魔力の量が少ない分回復は早いようです」
「僕と同じだな」
修先輩はそう言って苦笑する。
確かに修先輩から感じる魔力の量はかなり少ない。
反則技な杖さえ使わなければ僕と大差無い程度だ。
典明やロビー先輩より低い。
「実はさ、色々調べたり皆で討論したりして朗人の事故が何故起こったかの推論はたてたんだ。ただここの面子じゃこれを起動できなくて試せなかった訳さ。朗人以外で唯一使えそうな愛希ちゃんはずっとそっちにいたしね」
ホワイトボードには色々怪しげな式。
そしてパイプをいくつか組み合わせたような模式図。
「魔力って数式化出来るんですか」
「魔力の出力を必要とする分野では使われているんだ。まだ初歩的段階だけれどね」
そして5人が囲んでいるテーブルの中心には色々な工具と杖の材料らしきもの。
見覚えのある魔法ブロックと金属製の杖が3本。
さらに小型のIC回路のような物と電子工作用のブレットボード。
どうやら新しい杖の試作までしていたらしい。
工作魔法持ちが3人いるから工作機械無しで色々出来る訳だ。
まあこの辺のレベルが高専や大学の標準だとは思っていないし思ってはいけないのだろうけれど。
「あの事故の原因は大体わかったのですよ」
そう言って詩織先輩はホワイトボードの方へ。
そこで細い筒と太い筒が繋がったような図を書く。
「この細い方がモノセロスで、太い方がプログレスだと思って欲しいのです。
さて、細い方のパイプの内径面積がπ、太い方の内径面積が4πとします。
太い方のパイプから流速1cm/sで空気が出ている場合、細い方は流速何cm/sで空気を吸い込んでいるでしょう。取り敢えず気圧は同じだと仮定します」
「単位時間の空気量が同じという話ですね。だから流速は4倍の4cm/sという」
「正解なのです」
詩織先輩は頷く。
「さて、次の問題です。先程と同じ細いパイプと太いパイプを用意します。
太いパイプと細いパイプ両方にモーター付きのファンを仕込むとします。
このファンを仕込んだときの流速は両方のパイプともに1cm/sとします。
さてここで流速が同じになるように、細いパイプと太いパイプを、太いパイプの方が風下になるようにきっちりくっつけます。このとき……」
「つまりモノセロスとプログレスとの間で、プログレス側からモノセロスの出力方向に負圧というか魔力を引っ張る力が働いている、という事ですか」
最後まで説明を聞いても良かったのだが、ついそう言ってしまう。
詩織先輩はちょっとむくれた。
「説明途中で答を言うのは禁句なのです。でもその通りなのです。つまり組み合わせる事によって本来の個人の魔法放出以上に魔力を吸い取ってしまうのです」
「しかも自己増幅特性もあって、吸い取ったり放出したりする魔力がどんどん大きくなっていくんです。だから魔力の多少の大小は関係なく、持ち続けていると誰もが魔力を使いすぎてしまう訳です」
「そういう訳で、取り敢えず途中に魔力の抵抗を設けることによって魔力流入を抑えた杖を試作してみたんだ。抵抗部分をどうするかで議論があったので取り敢えず抵抗ありは2種類。そして念の為抵抗なしの危険なものも試作してみた」
「私はやめた方がいいと言ったのですけれど」
香緒里先輩は危険バージョンを作るのには賛成しなかったと。
でも他のイケイケに押し切られたという訳だ。
「それでは安全な方を試してみます。どれから行けばいいですか」
「まずはこれなのです」
Ver.3と書かれた付箋がついている杖を詩織先輩が僕に渡す。
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