第166話 普通ではない魔女一同

 とりあえず愛希先輩は勿論沙知先輩も無事らしい。

 何故ああなったかも大体は愛希先輩と風遊美先輩から聞いた。

 まず沙知先輩が杖無しで空間移動の魔法を起動。

 そして3回目の逃走で魔法のコントロールに失敗。

 海上に移動してしまうとともに魔力を使い果たして気絶してしまった。


 沙知先輩が海に落ちたと同時に愛希先輩が追いついた。

 とっさに両手で沙知先輩を抱えて救助。

 その時に杖を両方とも落としてしまったらしい。


 愛希先輩は沙知先輩を抱えたまま杖無しで空間移動魔法を発動。

 何とか海上に出た瞬間に冷却魔法で海上に足場を確保。

 魔法で服を乾かすとともに足場を魔法で確保。

 更に物を移動させる魔法で島に向けてじりじり移動していたらしい。


 なお沙知先輩は意識は取り戻したものの、魔力欠乏からくる疲労もあって睡眠魔法で寝かしつけたそうだ。

 愛希先輩も疲労と魔法消耗が激しかったそうだが、どうしても僕が起きるまでついていると離れなかったとのこと。

 なお今は愛希先輩、僕がさっきまで寝ていた布団で熟睡中。


「愛希さんの場合は単なる疲労ですね、このまま寝せておいて問題ありません」

 とは風遊美先輩の評価だ。


「朗人さんが意識を失ったのは単なる魔力欠乏です。沙知さんと違って元々の魔力がそれほど大きくないのでもう問題無いと思います」


「そう言えばあの魔法ブロックは?」

 気を失ったとはいえ、あのおかげで愛希先輩の事も気づけた。

 それにあのブロックを使った瞬間、明らかに世界が広がって見えた。

 あれが魔法使いの本来の感覚だったのだろうか。


「あの魔道具については修さんと詩織さん、あと典明さんで調査中です。普通は杖を使うだけで魔力の暴走が起きる事は無いので」

 ならそっちも問題は無いか。

 風遊美先輩はパソコンや僕の腕に巻いていたバンド等を小さい鞄に片付け終わる。


「愛希さんは単に普通に寝ているのと同じですから心配しなくていいですよ。気が向いたら修さん達の方も顔を出してあげて下さい。適合する魔力を使える人がいなくて苦労しているみたいですから」

 そう言って風遊美先輩は立ち上がり、部屋を出て行った。


 僕はもう一度愛希先輩の顔を見る。

 うん、ちょっとクマができちゃっているな。

 これくらいならぐっすり寝ると治ると思うけれど。


 軽くキスしようかとも思ったが一応保養所内だしやめておく。

 そのかわり愛希先輩の布団をきちんと調えて、そして立ち上がる。

 照明をを常夜灯にして。


「ありがとう、愛希先輩」

 小さく声をかけて部屋を出る。


 ◇◇◇


 部屋を出ると声をかけられた。


「もう大丈夫?後遺症なんかは感じない?」

 理奈先輩だ。

 何故かキッチンにいる。


「大丈夫です。ただ愛希先輩が代わりに疲れて寝ちゃいましたけれど」

「ずっと愛希、くっついていましたしね」


「沙知先輩の方は大丈夫ですか」

 理奈先輩が苦笑する。


「使った事がない空間移動魔法をその場で組成して使ったみたいですしね。まあいい薬ってところですわ。私も人の事は言えませんけれど」

「その場で魔法組成なんて出来るんですか」

 はじめて聞いた。

 でも理奈先輩、そして美雨先輩も頷く。


「ある程度人が使用しているのを確認して、原理がわかっていれば可能です。勿論適性によっては使いにくい魔法もありますけれど。それでも私は使用経験がない魔法は試してからにしています」


 あ、ルイス先輩が苦笑している。

「そんな事出来るのは理奈と美雨と沙知とエイダ、あとは風遊美先輩くらいだな。朱里先輩もやりそうだけれども。普通はそんな事出来ないし、考えもしないから」


 つまりいま出てきたような魔女は普通じゃない訳だ。

 重々わかっているけれどさ。

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