第164話 広がる魔力

 お互いダメージが微妙に残ったまま帰途につく。

 それでも4人分のサンドイッチが空になっているのはさすがだ。

 いや、そのせいで愛希先輩の運転が微妙にダイナミックさに欠けているのか。

 色々いっぱいいっぱいな僕としては判断がつかない。


 帰りは学校側の海面から一気に高度を上げマンションの屋上へ。

 到着してい草スリッパと靴を履き替え大広間へ。


 あ、何か皆の雰囲気が微妙に変だ。

 何故だろう。

 気になりつつも男性更衣室兼工作室へ。

 そこでは典明が魔法ブロックを持って色々試しているところだった。


「悪い。どうしても試してみたくて作ってみたんだが、やはりこの回路は吾輩ではわからん」

 典明から渡された魔法ブロックをぱっと見て確認する。

 これはモノセロスとプログレスの2段構造だ。


 まさか。

 典明はバツが悪そうに頭を掻く。

「悪いな。恋愛のケーススタディになるって言って、沙知先輩が鑑賞会を……」


「沙知!」

 あ、沙知先輩が逃げた。

 しかもただの逃げ方じゃ無い。

 空間移動魔法を使って姿を消した。


「ふふふふふ、甘いな沙知。それ位私が使えないとおもっているのか」

 愛希先輩が不敵に笑って杖を2本構えた。

 モノセロスとヘリテージの2本構えだ。

 愛希先輩の姿もあっさりと消え失せる。


 しかし……

「まさか沙知先輩も空間移動を使えるとは」

 そんな様子は今までになかったのだけれども。


 でも典明は納得するように頷いた。

「そんなに難しい事じゃ無いだろう。沙知先輩なら。

 元々好き勝手に色々魔法を開発しているしな。

 他の誰かが開発に成功しているなら、あの人に出来ないとは思えない。

 でもごくごく珍しい魔法の筈の空間移動を使える魔法使いがこれだけ増えるとはな。これもシンクロニシティの実例という奴だろうか」


 相変わらず典明は訳のわからない単語を使う。

 だが今はその話じゃない。

 目的は杖、いや魔法ブロックで作った回路の試験だ。


 僕は軽く杖を構えて、そして魔力を通す。

 お、これは!


 隣の大広間の影に理奈先輩がこっそり隠れているのが見える。

 これはきっと沙知先輩と共謀正犯なのがばれた際に不味いからだろう。


 美雨先輩が何か顔を赤らめてぶつぶつ言っているのもわかる。

 他人のデートを見ただけでで赤くなって色々感じるとは美雨先輩もなかなか初心でよろしい。

 人付き合いは得意でないというのも確かなようだ。


 詩織先輩が本日4個目のプリンを食べているのも確認。


 更に範囲を広げて世田谷先輩とエイダ先輩、あと青葉が学校の工房前で魔法の訓練をしているのもわかる。


 ルイス先輩は学校で走り込み中だ。

 そして更に先に……


 えっ。

 海上、そこそこ波がある中に浮かんでいるのは……


 僕は部屋を飛び出した。


「詩織先輩、お願いします助けて下さい!」

「どうしたのですか」

 食べかけのプリン片手に詩織先輩がやってくる。


「愛希先輩と沙知先輩、北東2キロの海上で助けを求めてます。氷の塊を作って上に避難していますが杖を海中に落として移動できない状態です」

「了解なのですよ」

 詩織先輩はそれだけ言うと何も聞かずに姿を消す。

 大丈夫だろうか……

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