第162話 絶景見ながらお弁当タイム

 落ち着いてくると景色を愛でる余裕も出てきた。

 ここから聟島がよく見える。

 山に隠れて町や学校は全然見えないけれど。

 そしてそれ以外は海。

 ひたすら全部海だ。


「なかなか景色凄いな、ここ」

「だろ」

 愛希先輩が笑う。

 あのにたっ、という何か含みが入ったものでなく可愛い微笑み。


「ここの風景が案外良くて何回かここに来てみたんだ。飛行機や船のコースともかぶらないから練習用にちょうどいいしさ」


「そう言えばタイムが出ないとか言っていましたね」

「ああ。詩織先輩と青葉と3人で色々な飛行機械を使ってタイムトライアルをしたんだ。詩織先輩が持ってきた田奈先生の飛行スクーターも試したけれど、私はこのフライトボードの方が好きだな。自由自在に飛べるし。3分あればここまで来られるし」


 時速何キロで飛んでいるんだろう。


「他に新装した飛行場神社とかも考えたんだけどさ。飛行機械で行ったら怒られそうだし」

 確かに管制塔から文句が出るだろうな。


 飛行場神社とは特区唯一の宗教的な建物で、正式な名前は磐船神社。

 飛行場の安全を祈願して本土の有名な神社から勧請したらしい。

 どんな宗教であっても寛容との事で、宗教に否定的な人間が多い特区でも好意的に扱われている。

 昨年からは新年のイベント等も行われているそうだ。

 僕は行った事が無いけれど。


「さて、弁当にしようぜ。腹が減った」

「まだラーメン食べたばかりじゃないですか」

 1時間も経っていない。


「一仕事したから腹が減るの」

 魔法はカロリーを消費するのだろうか。

 現在それを客観的に裏付ける資料は無い。

 でもまあ、いいか。


 ディパックからお茶のペットボトルとサンドイッチ入りでっかいタッパーを出す。

 岩の処に2人で腰掛けて間にタッパーを置く。


「そうそう。これこれ。美味いんだよな、これが」

「まあ材料がいいですしね。本場直輸入ですし」

「それでも作った人の腕だと思うぞ、結局は」

 そう言って愛希先輩はハムチーズの定番バケットサンドを思い切り頬張る。


「ん、ん、ん。そうそう、これこれ。このマヨマスタード有りが美味いんだ」

「今日は愛希先輩用だからこのタイプですよ」

 ちなみにマヨ無しマスタードのみだと詩織先輩バージョン。

 マヨマスタード無しバターたっぷりがソフィー先輩や典明用だ。

 人によって微妙に好みが違う。


「あとはツナタマゴですね」

 これも胡椒有り無し、レタス入り無しのバージョンがある。

 愛希先輩用は胡椒無しレタス入りだ。


「んん、やっぱりこういうの、何かいいよな」

「そうですね」

 僕もハムチーズサンドをひとつかじり、お茶を飲む。

 うん、たまの遠足気分も悪くない。

 愛希先輩もやっぱり可愛いし。


「そう言えば魔法の訓練で何か作るってのは出来たのか?」

「ええ一応。ただ完成してからも色々工夫が必要みたいです。中身の組み替えで色々出来るらしくて。モノセロスの杖とかプログレスの杖とかも再現できるようです」


「ならモノセロスとプログレスの2段構えの杖とかも作れるのか」

「出来る筈ですね、どうなるかはわかりませんが」

 それ位誰もが考えるだろうと思ってふと気づく。

 普通の魔法使いの魔法では機能を確認出来ないよな、モノセロスは。

 よし、保養所に戻ったらやってみよう。

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