第161話 死ぬかと思った

「あ、何なら僕は修先輩にこの潜水艇を借りてきますから」

 危険な提案をされる前に先手を打つ。


 フライトボードもエアスケーターも1人乗りとして制作した。

 強度や性能的には2人乗っても大丈夫。

 でもおそらく非常に乗り心地が悪い。

 というか危険だ。

 何せ座席も何もない立ち乗り仕様。

 後ろの人は足場も捕まる場所もない筈……あれ?


「何か見慣れないパーツが付いていますね」

 あ、気づいても言わなければ良かった。

 そう思ってももう後の祭り。

 愛希先輩はにやりと笑う。


「ロビーにタンデム用のバックステップとサブハンドルを作って貰ったんだ。チタン製で折りたたみにも支障ないサイズだぜ。これなら2人乗りもOK」


 おい待てロビー先輩。

 いつの間にこんなのを作ったんだ。

 しかもハニカム構造の足置き場とトラス構造のフレームという美しい仕上がり。

 これはバイクの改造の応用だろうか。

 いや今思うべきはそっちじゃない。 


「いや、いいですよ。元々そのフライトボードは1人乗りですし」

「大丈夫、既に青葉と一緒に2人乗りのテスト済みだから」

 いや、青葉はあいつなりに超人だから。

 バランス感覚とか人間じゃ無くて魔女だから。

 そう言おうと思ったが言わなかった。

 言っても無駄だとわかるので。


 うん、いざという時は覚悟しよう。

 それに修先輩も風遊美先輩も保養所にいる。

 だから死ぬ事は無いだろう。

 即死でなければ。

 という訳で諦めて愛希先輩の後ろに乗る。


 ぶっちゃけ狭い。

 愛希先輩と密着状態。

 背後をタンデム用フレームで支えられているから離れる事も出来ない。

しかもディパックを背負っているから余計に密着。


 というか僕の下半身のやばい部分、もろ先輩の腰に当たっている。

 愛希先輩は全然気にしていないようだけれど。

 もう少し僕の位置が低ければもっと危ない……

 いや、それは絶対考えてはいけない。


「じゃ、行くよ」

 うわっ!

 ちっこいフライトボードが一気に垂直上昇。

 そして次の瞬間、斜めに地上目がけて落ちていった。

 いや、滑空か。


 そのまま港方面に向かって滑るように斜めに落ちていくかと思うと、海面4メートル位上で体勢を立て直し、そのまま水平飛行に移る。

 メーターなんて付いていないが体感上はかなりの速さ。

 そして笹魚島の手前で真横に振れるようなバンクをかけ左折。

 そのまま中之島を通り過ぎて北之島へ。

 北之島手前で一気に上昇、そのまま軽くブレーキをかけつつ、ほぼ北之島の一番高いところの少し平らな部分で機体を停めた。


「うーん、2人乗りだとやっぱりタイム出ないな」

 僕はもう膝がガクガクしている。

 ジェットコースターと違い安全が保証されていないから無茶苦茶恐い。

 振り落とされるような挙動は無かったけれど。


「もう下りても大丈夫だぞ、目的地はここだし」

 という事で何とか下りる。

 案外平らな部分が広くて少し安心。

 ただだま膝が笑っている。

 今の恐怖が完全に消えていない。

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