第157話 持ち出し禁止な試作品

「実は魔法工学の実習、今年のように実作が多くなるまでは他の課題もあって、それが生活便利用品の開発というものだったんだ。


 今年からそれが無くなると聞いてさ。今までの課題の優秀なのが埋もれていくのが勿体なくて、つい市販ラインとして作ってしまった。完成品で作ると家電メーカーに睨まれるから、あくまで魔力持ち用の工作キットとしてね。


 勿論もとの制作者に交渉して費用還元もしている。大体6割制作者に還元だね。それでもまあ、利益はそこそこ出ているよ。


 まあ構造は元々の制作物から大分簡略化しているし、僕の魔法で作れば金型なんかもいらないしね。平日は毎日注文を確認して、注文分を工場で作って宅配で送っているんだ。

 しかし何であれに目をつけたんだい」


「いや、魔法工作力を少し鍛えようと思いまして。出来れば魔法で全部作ってみて、工作魔法が身につけばいいなと思ったのですけれど」


 修先輩はにやりと笑う。

 10%位怪しい成分が混入している感じに。

「いいキットがある。各方面にダメ出しされて製品化できなかった試作品だ」

 何だろう。

 ダメ出しされたという事は危険な代物なのだろうか。


 修先輩は自分の部屋へ入り、そして箱を抱えて戻ってくる。

 箱には『楽しい魔法ブロック』とある。

 何か微妙に何処かで見たような商品だ。


「いや、見ればわかると思うけれど電子ブロックのノリで魔法回路を作成できるキットを作ってみたんだ。勿論ブロックや本体も自分で組み立てるキットとしてさ。

 出来たのはいいけれど組み方次第では魔力増幅20倍以上の回路も作れる事がわかってさ。面白いとは思うんだけれど泣く泣くボツにした」


 それは危なすぎるだろう。

 確か特区でも販売可能な範囲は増幅値2倍以内だった筈だ。

 個人所有品は別だが市販品でそれは無茶過ぎる。


「性能や完成度は自信あるんだけどさ。学校内で教育用としての使用も駄目ですかと田奈先生に聞いたら思いきり怒られた。こんなの外部に漏れたら戦略物資級だぞって。そのくせ自分用の複製はちゃっかり作るあたり、親父らしいんだけどさ」


 親父というのは田奈先生の学校内でのあだ名だ。

 風貌がいかにも中年親父らしいというそれだけの理由らしい。

 でもその判断は田奈先生の方がきっと正しいと思う。


 というか、そんな危ないものを拡散してどうするんだ。

 まあ言語道断な増幅倍率の杖を気分のままに増産して学生会関係者に配っているこの人の事だ。

 きっとそういう部分が浮世離れしているんだろう。


 ただこの魔法ブロック自体はなかなか面白そうな代物だ。

 少なくとも単なる実用品よりも勉強になりそうだし色々な可能性もありそう。


「ではこれを下さい。いくらですか」

「これは他人のパテント入っていないからいいよ。それにボツになった品だしね」

 あっさりそう言われてしまう。


「でも原価くらいは」

「会社で開発費として処理しているしね」

 何かその開発費、色々怪しい出費が出ていそうだな。

 でもまあそれなら大変ありがたい。


「それではこれ、いただいてきます」

「ほいほい」

 修先輩はそう返事すると、またパソコンに向かいだした。


 またこの魔法ブロックのような怪しい製品を設計しているのだろうか。

 この人の研究は限りなく趣味に近いらしい。

 だから作っているのが課題なのか研究なのか、それとも単なる趣味なのかまるでわからない。

 そう詩織先輩から聞いている。


 でもまあ、取り敢えずはこの魔法ブロックだ。

 製作場所はやはり男子更衣室のあの部屋がいいかな。

 詩織先輩の出張工作室も兼ねているから色々な工具もあるし。

 今回は出来るだけ魔法で作る予定だけれども。

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